8 奥許し

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 その後すぐ八咫烏のところへ行った。 「大先生から話は聞いた。明日の朝イチで辞表持って来い。じゃなきゃ朝礼でクビにする」  奴はこっちの顔を見ようともしなかった。  書類に目を落としたままだ。  彰志が去ろうとしないので、ようやく八咫烏は顔を上げた。 「まだ解んねえか。敵わねえと我先に逃げるような中途だったら、まだ可愛げがある。なまじ血統書付に並んで粘る、手前ェのような中途が、一等先に死ぬ」 「自分は死ぬつもりでやってません」 「そうか? 俺の経験じゃ、手前ェみてえなのが最後に思い付くことは必ず一緒だ。『足りねえ分は命で補やいい』ってな」  今度は彰志が下を向いた。  悔しいが言い返せない。正直自分もそう考える時はある。  いや、現場に出る度、必ずそう思っていた。 「そういうのは血統書付きに任せりゃいい。中途が頑張るこたァ無え」  床を見つめながら歯を食いしばった。  なんじゃそりゃ。お前らはいいのか。  思い上がるのもいい加減にしろ!  思わず怒鳴りそうになったが、その前に八咫烏が言った。 「俺も、そういう中途一人の命で生きてる」  八咫烏の言葉に、彰志は思わず顔を上げた。  奴の表情から何を考えているかは、わからなかったが。 「この機会に娑婆に出してえところだが、残念ながら俺にそこまでの権限はねえ。手前ェは動きが正確だからな、封じ手としてなら引き合いがあるだろう。御術使(げんえき)はやめろ」 「勝手なこと言うな、昔中途を死なせたからって、罪滅ぼしのつもりか?」  言ってはならないことを言ったという自覚はあった。 「お前の罪悪感に付き合うつもりはねえよ」  今考えればまあ、こんなこと言ったのは、若気の至りと言おうか、イタチの最後っ屁と言おうか。  もちろんあいつは歯牙にもかけなかった。 「俺に敬語は止めたか、決心はついたようだな」  そう言って八咫烏は、書類の山に戻った。  それで話は終わりだった。  あの夜の、大き過ぎた希望と、絶望。  フリーになってから、中途には中途のやり方があると、師匠や先輩から学んだ。  術力が足りないなら、最小限で使う技を磨く。  呪符、術武器、使える物は何でも使う。  今やれることを出し切る。  それで何とか、御術使を続けて来れた。  鴉は辞めて良かったと、今は思う。  奥許しのことは忘れもしなかったが、もう手に届かないもんだと諦めてた。  ところが、出せた。  こうなると欲が出る。  出したい。  出さなきゃならん理由もある。  奴らさえいなければ生きていたかもしれない、師匠の仇討ち。  娑婆の人並みで術も出せない総代を、守り通す事。  そして、神様からの伝言。  風切(これ)を預かったからには、貫き止めなきゃならねえ。  それやこれやで、正直焦る。  焦って失敗(しくじ)る。  雑念ばかりだ。まだまだ未熟か。    彰志は、大きく息を吸い、ゆっくり吐く。  白い息が細長く真っ直ぐ吐き出される。  腰を落とす。刀を振る。  ひたすら繰り返した。  
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