単位ほしい...?

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「おまえ、邪魔するのか。こいつは私の獲物だぞ...! いつも邪魔しないくせに、なのにどうして?!」  とヤギ男は怒りで怒鳴り散らす。店長は、ヤギ男の怒気に怯むことなく淡々と言った。 「この子、常世喫茶「冥」に来店したからね。このまま黙って放っておくわけにはいかないんだ」  と言って、ヤギ男の横を通り過ぎ、俺の前に膝を折って、視線を合わせる。 「単位はいらない、自分の実力で何とかする。それは本当だね?」  と確認を取った。俺は慌てて首を上下に振り、 「俺、自分で頑張るから、だか、ら、単位いりません...だから」 「じゃあ、この資料はもういらないね」  と言って、店長はあのクリアファイルをひょいっと取った。その様子をみたヤギ男が 「ふざけるな! 私の勝ちだぞ、横から搔っ攫うなんて、おまえ卑怯だ、卑怯だ、卑怯だ!」  と喚き始めた。店長は静かに言う。 「でも、この子まだ中身を表紙以外1ページも読んでないから、正式には君のものじゃないよな。それに、ここへ来てすぐに捕まえなかった、君の落ち度だよ。ここに来る前に私の店へ立ち寄ったから、この子は私のお客様だ」  と静かに言った。ヤギ男は店長の言葉を聞いて肩をぶるりと震わすと急に沈黙して、俯いた。 「これに懲りたら悪趣味な追い詰め方をしないで、さっさと捕まえることだね」  と言って、店長は俺の手を取り立ち上がらせる。えっ、これって助かったって思っていいのか?常世喫茶「冥」の店長は、 「ほら、これ返しとくよ」  と言って、店長は資料をヤギ男に突っ返す。資料をしぶしぶと言った様子でヤギ男は受け取った。その様子を見かねた店長は、 「今度お詫びに何か作って持っていくからさ」  と言って、歩き始めた。俺は慌てて店長の後を追う。すると、後ろから 「ねえ、君。やっぱり単位欲しくない...?」  と泣きそうな声でヤギ男が聞いてきた。俺の横から「君も往生際が悪いなあ...」と店長の小さな呟きが聞こえてくる。ここで選択を間違えてはいけない。  俺は深呼吸をして、落ち着いて自分の意見を伝えた。 「俺は、その資料はいりません。自分の力で単位を取って卒業します。迷惑をかけてすみませんでした」  俺の言葉を聞くと、ヤギ男はがっくりと肩を落とした。そして 「分かりましたよ...。せいぜい残りの一週間頑張ることですね!」  捨て台詞のような言葉を吐くと、次の瞬間、静かに空気のように消えてしまった。  助かったのか?  俺は歩こうとするが恐怖体験のせいか、腰が抜けてしまいうまく立てないし、歩けない。その様子を見ていた店長がやれやれと言った様子で、 「とにかく、一度うちの店に来なさい」  と言って、店長は再び俺の手を取り、常世喫茶「冥」に連れて行った。
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