単位ほしい...?

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「マスター、おかえりなさい! って、あれ、先ほどのお客様じゃないですか? もしかしてマスターわざわざ探しに出かけたんですか。もう人がいいんですから」  ウェイトレスは店長と一緒に入ってきた俺の方を向いて、こう言った。 「お客様、うちのマスターにお礼言ってくださいね!」  とウェイトレスが俺に向かってぷりぷりと怒って言った。が、あんなことを体験した後だ。ウェイトレスの怒った様子などちっとも恐くなかった。なんだかやっとほっとしたと感じたのか、俺はへたりとその場に座り込んでしまう。 「お、お客様? 大丈夫ですか? どうしよう、まさか体調悪かったとか」  とお人好しそうなウェイトレスが慌てて俺に駆け寄る。 「落ち着きなさい、とりあえず、キッチンの下の棚に入っている水を取ってきてもらえるかな」  するとウェイトレスは驚いたように店長へ尋ねる。 「え、わざわざ別にしてある、あの水ですか?」 「そう、それ。このお客様はいつものとは違う水が必要なんだ」 「分かりました、すぐ取ってきますね」  そう言って、ウェイトレスがキッチンに向かう。この店の店長が俺の手を取って立たせ、近くの椅子に座らせた。俺はしばらく力が抜けて、近くの古時計を見て、ぼうっとしている。その様子に店長は怒ることもなく、静かに見ていた。  するとウェイトレスはガラスコップに水を入れて戻ってきた。 「はい、お冷になります。ここに置いておきますね」  とウェイトレスが水を机の上に置いた。俺は、喉がカラカラだったから、正直にいえば飲みたかった。しかしここでこの水を飲んでいいのか悩む。いくらこの人たちがいい人でも異世界の物を飲み食いして大丈夫なのだろうか。  すると俺の不安に気づいた店長は人を落ち着かせる声でこう言った。 「君は冷静だね。大丈夫だよ。君が飲んでも問題ないものを用意したから」  と店長は微笑む。なんだか安心する笑顔だ。俺はなんだかほっとして、コップを取り、一気に飲みほした。ああ、冷たいのにとても安心する...。  その瞬間、俺の目からすうっと涙があふれた。
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