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焼け爛れた人が必死で何かを運んでいる。醜い顔をした鬼が金棒を持ちながら、人々を殴って虐めていた。奥にいる人なんて、片腕がぼとりと今にも取れそうだ。
血の生臭ささと煙の臭いがこちらまで吹いてきて思わずむせ返りそうになる。
ものすごい熱風の中で、板の上を渡らされている人がいる。今にも、落ちそうで見ていられない。もし落ちたら、灼熱の炎に身を焼かれてしまうだろう。
それは、まさしく地獄絵図だった。俺は口を手で押さえて、呆然と見ているしかできなかった。
「さあ、今日からここがあなたの家ですよ」
と優しげな声でヤギ男が言った。本田は、
「いや、だ!いやだ、いやだ!!もっとやりたいことがあったのに、社会人になって、たくさんお金を稼いで、いっぱい遊んで、彼女だって作りたかった。それなのに、どうして、どうして、うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
本田の叫び声がうるさかったのか、気分を害されたのか知らない。ヤギ男はポイっと地獄に本田を投げ込んだ。そしてこちらを振り向いてこう言った。
「あなたも運がよかったですね、本当に! まあ運がいいのも実力のうちですね。ああ、それと卒論発表おめでとうございます。残りの一週間かなり頑張ったんですね。その根性と努力は褒めてあげなくては!では、またご縁がありましたらお会いしましょう」
そう言って、ヤギ男は地獄に足を踏み入れ、扉がひとりでに閉じた。
次の瞬間、バンっとヤギ男が入っていた扉が開く。助手の先生たちだ。
「本田君は?! 大丈夫かい、ああ、こんなことって...!! こんなことが2度も起こるなんて!!」
と教授が嘆いている。俺は呆然と座り込みながら、絶望したような教授の言葉を反芻する。”2度”って、昔もこんなことが起きたのか? すると、助手の先生が俺に必死に話しかけた。
「佐藤君、佐藤君? 大丈夫かい、とにかく別の部屋に行こう。本田君は私たちが見ているから」
俺がショックを受けていると思ったらしい。俺を別の部屋に連れて行こうとする。
「あの、先生、本田は...、もう」
「分かっている。あの時と同じだ」
と先生は俺に静かに言った。やっぱりそうだ、この人も経験したんだ。
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