単位ほしい...?

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「やれやれ、取り壊しですか。これだから人間は!自分で作ってすぐに壊すのだから、困ったものですね!」  地獄の淀んだ空気の中、悪魔はカツサンドを雑に食べていた。周囲には魂たちが酷い目にあっているというのに、この悪魔にとってはそれは日常らしい。こんな酷い場所で平気で食事をとるなんて、全く悪魔の思考はよく分からない。  そんなことを考えていたら、この悪魔はカツサンドを食べながら私に向かって文句を言ってきた。 「困ると言えば、あなたもですよ。途中で茶々入れてきて、なんで余計なおせっかいをしたんです?! こんなカツサンド1セットじゃ満足しませんよ。それに私の好物位知っているでしょう! 用意するなら新鮮な内臓系のバーガーでも用意してください!」  と大変働き者の悪魔が私に言ってくる。悪魔の要求する新鮮な内蔵系のバーガーは難しいなあと考えなら、なだめるように答えた。 「私がせっかく作ってきたんだから、食べてくれよ。今度レバーでも用意してくるから」 「そういうと思いましたよ。でも話を逸らそうとしても無駄ですよ!理由を聞かないとこっちも納得いきません!」  と悪魔は怒気を放った。残念、人間だったら腰が抜かすかもしれないが、わたしも”こちら側”の存在だ。この程度の怒気、恐くもなんともない。ああ、こいつも怒るんだなと思ったくらいだ。 「君が連れてきた子は、店には来なかったよ。それに、大学のキャンパス内でもう資料の中身を読んでしまっていたから、店に入れなかった。いや、店の存在に気付かなかったみたいだ」  私の話を聞いた悪魔は目から鱗が落ちたかのように、テンション高く答えた。 「なるほど、じゃあ今度から!途中で中身を確認するように仕向ければいいんですね!いい情報が手に入りました!」  と悪魔は残ったカツサンドをぺろりと食べると上機嫌に言った。なんともすごく前向きな悪魔だなと思いながら私は、はあっとため息をついて、 「ところで、あの旧館もう取り壊されるみたいだけど、どうするんだい?」  と気になっていたことを尋ねてみる。私の問いが大変面白かったらしい悪魔は大笑いしながらこう言った。 「場所がなくなったくらいなんです。そんなの手を変え品を変え、どうにもできますよ。そもそもこの大学だけが拠点じゃありません。世界中に私の拠点があります、人間の強欲さを利用していくらでも魂を手に入れて見せますよ! ______って聞いてね?」  単位ほしいと尋ねる悪魔の言葉はとても魅力的で、恐ろしい言葉だった。人間がこの誘惑に耐えるには本当に難しいことだろう。 「そうかい。お疲れさん」  とだけ私は答えると立ち上がった。 「おや、もう行かれるのですか。もう少しゆっくりしていけばいいのに」 「ここは、私にとっても居心地が悪いんだ。それに店の仕込みをしないといけないしね」  と言ってこの地獄絵図のような場所から立ち去ろうとする。そんな私に悪魔は、紳士があいさつするかのように言った。 「では、またの機会があればお会いしましょう!常世喫茶「冥」のマスター!」
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