2人が本棚に入れています
本棚に追加
まさかあの怪談だか噂話を聞いて本当にこんな所へ来るなんて...。誰も見てないよな? 俺はそう思いながら、パーカーを被って、校門をよじ登る。時間は深夜1:30。俺は、自分の通う大学の旧館前にやってきていた。
来週には、卒論発表を控えている。決して、あの噂を信じているわけではない。ただ、もしもという時に卒業論文の単位が完璧にいい評価をもらえる可能性があるなら、試してみるのも悪くない。
そんな考えが浮かぶほど、俺は精神的に追い詰められていた。先日ゼミ内で卒業論文の中間発表会が行われ、俺の後に発表した本田が隙のない完成度の高い論文内容を提出したのだ。教授たちは、それはもう本田を褒めちぎった。いける、これならうちのゼミから最優秀論文を取れると息巻いていた。
俺の発表だって、充分合格点だった。今年はうちが学科1位取れそうですねと助手の先生と話していたくらいだ。だが本田の発表は、レベルが違った。みんなが本田を褒めちぎる様子を見て、俺のプライドはぐちゃぐちゃになっていた。
見てろよ。あと一週間で本田よりすごい論文を用意してやる。
本田は確か成績6位、このままだと俺の順位を抜かす可能性は高い。そんな時、俺はあのバカげた噂を思い出した。
【完璧な卒業論文に必要な資料があるんだって!】
「うわ、旧館こわっ、雰囲気ありすぎだろ。それに建物がぼろいな。旧館なんて早く取り壊せばいいのに」
AA大学の七不思議のひとつ。立ち入り禁止の旧館だ。旧館を取り壊して新たな研究棟を建設しようという計画があがったのに、なかなか取り壊されないのだ。
取り壊そうとするたびに不思議な現象が起こり、建設現場から苦情が来て中止になるのだ。
俺は誰も立ち入らない旧館に入るとスマホのライトで辺りを照らした。埃っぽい空気がして、さらに空気が淀んでいて気分が悪い。こんなところ、さっさと目的を果たして出よと思いつつ、足早に進んでいった。すると、廊下の奥に部屋があり、ドアの近くにいくつかのポストが並んでいた。これは教員用ポストだ。
「えっと、確か教員ポストは12個あるのに、1個多いんだよな」
俺は2段の列になったポストの数を数えていく。
「ニ、四、六、八、十...。十二、なんだやっぱり12個しかねえじゃん。そうだよな。こんな噂話本当にあるわけないよな」
いつもだったら、無駄足かよとイラついているはずなのに今回は安心の方の気持ちが勝っていた。
それにこんな気味が悪いところにいつまでも居続けたくなかったのだ。
「さて帰るか」
とつぶやいて、ポストを背にし旧館の入り口に戻ろうとした時だった。
最初のコメントを投稿しよう!