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「なんなんだよ、ここは。あの喫茶店もグルなのか?」
店員はぼんやりしたとろい女だし、マスターはなんだか不愛想な奴だった。確かに俺の態度は悪かったと思うが、あんなことがあった後なのだ。気が動転するのも当たり前だ。
しかも電話で110をかけたら、あのヤギ男の声がした。ぶるっと体が震える。でも足は走るのを止めなかった。そういえば、あの時の他ゼミの女子たちの会話を思い出す。
「さっきの噂の続き、逃げきれずに捕まっちゃうと異世界に連れていかれちゃうんだって」
じゃあ、ここは異世界なのか。だったら、納得する。ここはあまりにも生きている生命感が乏しい。まったく無いと言ってもいい。生きているのは、自分一人ではないかと感じるほどだ。
とにかく逃げなければ、そう思いながら角を曲がるとそこは行き止まりだった。まずい、引き返すかと思って振り返ると、
…………背後にあいつが立っていた。
もう怖すぎて、悲鳴もあげられない。俺は思わずその場で腰を抜かした。ヤギ男が上からじいっと俺を覗き込む。
ああ、やばい。俺こんなところで死ぬのか。
とぽろぽろと涙があふれだした。こんなことなら、まじめにあと一週間準備をすればよかった。くだらない意地をはらなければ、こんなことにはならなかっただろうに。
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