第一章 愛媛県松山市

10/47
前へ
/351ページ
次へ
  「え、ちょっと。弥生さん落ち着いて」  ぐすぐすと鼻を鳴らしながら、華奢な両手で涙を払う。 「いやいや、誤解ですよ。私はあなたの味方ですから。殺したりなんかしません。むしろあなたを助けたいと思っています」 「本当ですか?」  縋るような声は今にも事切れてしまいそうで、彼女の心がいかに追い詰められているのかが伝わってくる。 (これは重症だな)  人を信用できないくせに、誰かに助けを求めたがっている。  何者かに殺意を向けられているらしいが、相手の正体や理由はわからず、ただ逃げ惑うしかない。  呪いだ、と思った。彼女は確実に、()()()()()()()()()()()。 「とにかく一度、あなたの身に起こっていることを整理したいです。どこかゆっくりできる場所で話しましょう。私を信じてくれるなら」  すでに疲弊している彼女は、こくんと力なく頷く。  きっと思考もうまく働いていないのだろう。  こんな状態の女子高生を連れ回すのは気が引けるが、『責務』を全うするためには仕方がない。  さてどこへ向かおうか、と頭を悩ませていると、そこへ弥生が助け舟を出す。 「あの……それなら道後公園に行きませんか? ここから歩いてすぐなんで。広い公園ですし、ベンチもありますから」  
/351ページ

最初のコメントを投稿しよう!

138人が本棚に入れています
本棚に追加