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「よお、兼嗣」
黒い靄は人型のシルエットとなり、兼嗣に語りかける。
まだ声変わりを迎えていない少年の声。
「あの時はよくもまあ上手く生き延びたもんだな。でももう逃がさねえぞ」
聞き違えるはずがない、獅堂の声だった。
もはやトラウマに近いその声色を耳にしながら、兼嗣は顔を上げることもできない。
「今日こそは俺があの世まで連れてってやる。地獄で右京に詫びるんだな」
シルエットはどんどん大きくなり、人の背丈の何倍にも膨れ上がっていく。
天まで届くかと思われたその勢いが止む頃には、高さ十メートルはあろうかという真っ黒な怪物が出来上がっていた。
怪物はのっそりと鈍い動きで片足を持ち上げたかと思うと、それを兼嗣の頭上へと持っていく。
このまま踏み下ろせば、兼嗣は立ち所に圧死するだろう。
しかし彼はもはや顔を上げようともしない。
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