第四章 島根県出雲市

93/114
前へ
/349ページ
次へ
  「よお、兼嗣」  黒い靄は人型のシルエットとなり、兼嗣に語りかける。  まだ声変わりを迎えていない少年の声。 「あの時はよくもまあ上手く生き延びたもんだな。でももう逃がさねえぞ」  聞き違えるはずがない、獅堂の声だった。  もはやトラウマに近いその声色を耳にしながら、兼嗣は顔を上げることもできない。 「今日こそは俺があの世まで連れてってやる。地獄で右京に詫びるんだな」  シルエットはどんどん大きくなり、人の背丈の何倍にも膨れ上がっていく。  天まで届くかと思われたその勢いが止む頃には、高さ十メートルはあろうかという真っ黒な怪物が出来上がっていた。  怪物はのっそりと鈍い動きで片足を持ち上げたかと思うと、それを兼嗣の頭上へと持っていく。  このまま踏み下ろせば、兼嗣は立ち所に圧死するだろう。  しかし彼はもはや顔を上げようともしない。  
/349ページ

最初のコメントを投稿しよう!

138人が本棚に入れています
本棚に追加