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「とにかく早く帰ってきてください。今すぐです。間違っても今から温泉に入ろうだとか天守閣に登ろうだとか夏目漱石のデスマスクを見に行こうだとか考えないでくださいね!」
まるで頭の隅から隅まで見透かされているような気がして、もはや言葉もない。
そのまま通話を切られるかと思いきや、
「あ、ちょっと待ってください」
と、何やら向こうで確認を取り合うような間があった。
嫌な予感がする。
こういう時、考えられる事態は一つしかない。
「お待たせしました。前言撤回です。やっぱりまだ東京には帰らなくて結構です。本日はそちらに留まってください。丁度良い案件が発生しましたので」
ほら来た、と男は顔を歪めた。
こうなっては逃げるわけにもいかない。
「また面倒事に巻き込まれるのか。つくづく、この家の血筋に生まれたことを呪うよ」
「きっと前世での行いも悪かったからバチが当たったんですよ。観念して行ってきてください。今回問題になっている人物の写真と、名前と住所は後で送りますから」
先刻までとは打って変わり上機嫌になった璃子は、通話の最後に優しげな声で激励を送る。
「名探偵の出番です。永久家の未来のためにも、しっかりと呪いを返してきてくださいね。天満さま」
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