第一章 愛媛県松山市

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            ◯  永久(ながひさ)天満(てんま)は探偵業を生業にしている……わけではない。  ついでに言えば探偵でも何でもない。  しかし表向きは探偵であるフリをしなければならない、という厄介者である。 「さあて。今回の問題児とはどうやって接触しようかなっと」  璃子から送られてきた写真を眺めながら、坊っちゃん団子を片手に商店街を抜けて広場の方へ出る。  傍らには足湯と、名物であるカラクリ時計が聳える。  時刻は十二時四十五分を指したところで、一時間ごとに仕掛けが動き出す時計台は今はうんともすんとも言わない。 (あと十五分か。せっかくだし、ちょっとだけのんびりしていこうかね)  じきに十三時になれば時計台は雅な音楽とともにせり上がり、中から多くの人形が姿を現す。  ここ松山に来たとあれば一度は見ておきたい光景だ。  六月上旬のオフシーズン。  観光客も疎らで天候も良く、居心地の良さは申し分ない。  あと十五分だけ。  少しくらいなら見物していったってバチは当たらないだろう。  そんな胸中を見透かしたかのように、『寄り道しないでくださいね』と、このタイミングで璃子からSNSのメッセージが届く。  エスパーかこいつは。  はいはい真面目にやってますよ、と不誠実な返事を打ち込んでいると、何やら周囲が騒がしくなった。  反射的に顔を上げると、視線の先ではささやかな人だかりが出来ていた。  
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