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「私こういう者でして」
天満が恭しく名刺を差し出すと、受け取った少女——速水弥生は、小首を傾げながらそれを読み上げる。
「東雲探偵事務所……。東雲悠人?」
無論、偽名である。
『問題児』と接触する際には、けしてこちらの正体を悟られてはならない。
「探偵さんなんですか? なんで私のこと」
「実は、あなたのお身内の方からご依頼がありまして。最近のあなたの行動には不審な点があり、調査をしてほしいと」
「な、なんです、それ。身内って誰です? 私、不審な行動なんて何もしとらんですけど」
つい今しがた奇行を繰り広げたばかりの人間の言葉とは思えなかった。
が、天満はあえて言及しない。
そわそわと落ち着きを無くした彼女の様子が、全てを物語っている。
精神的に不安定で、先ほどの自分の行動も覚えていないらしいが、そういったことは今回が初めてではないのだろう。
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