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「シェリティ? シェリティ、居るか?」
「はい、こちらにおります」
黄金色の夕光が降り注ぐ池のほとりに、男女の声が飛び交う。
急くように名を呼び、女を探し求める男の声と、それに呼応した女の声。どちらも、まだ若い。若者特有の弾みと相手への思慕の甘さが、語尾に滲み出ている。
「やはり、花池に居ったのか。お前は、本当にここが好きだな。しかし、たいていの妻は、夫の帰りを神殿で祈りながら待つものだというのに。どうやら我が妃に限っては、夫の無事よりも花の世話のほうが重大事とみえる」
「まぁ、そのようなことは……あっ!」
ぼそりと低めに言葉を落とした男に、足を一歩踏み出した女は、すぐに動きを止めた。
そんなことはないのだと、夫の言葉のような考えなど自分は微塵も持っていないのだと伝えたかったのだが。手にした花ごと勢いよく引かれ、そのまま相手の腕の中に閉じ込められてしまう。
「ん? そのようなことは、の後は何だ。国境の砦を巡っていたここ数日、お前の顔を思い出しては胸を焦げつかせていた私なのだぞ? 納得出来る説明でなければ許さぬ」
男の甘い声音がその場の空気を震わせる。同時に、力強い拘束が女の胸をびんっと震わせて、熱く焦げつかせる。
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