SWITCH

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 Aliceという組織に入って、しばらく経ったある日。部屋の外がザワついている。何があったのだろうか。 「『シラユキ』────」 『シラユキ』は何が言いたいのかピンと来たようで、私が次の言葉を言う前に口を開いた。 〈自分で聞きに行きなさいよ……〉 『シラユキ』は呆れている。 「で、でも……」  私はあの研究所での周りの目を思い出してしまった。きっと、滅多に部屋から出てこない私を見れば、奇怪な目で見られるに違いない。そして、嘲笑われるんだ!  それにここではアリスとしか話したことがなくて、他の人とは、一度も…………。だから……。 〈私を作ったあなたがこんなんじゃ、私の評価まで下がるかもしれないじゃない。いつも言ってるじゃない。「あなたは私。私はあなた。私は誰?そう、私はシラユキ。あなたは私の鏡で、私はあなたの鏡」…………って。私がこんな性格をしているのだもの。イケるはず!〉 『シラユキ』はニヤ、と笑った。 「う、うう……わ、私は、私はイケる……!私はイケる……!!」  私は扉を思いっきり開いた! 「うわっ!?」 「えっ!?ご、ごめんなさ────」  誰かとぶつかりそうになり、思わず謝ってしまう。  走ってきたのはスーツ姿の男性だ。首から下はフォーマルな姿なのだが、頭を見ればフォーマルとかけ離れた髪型になっている。一部の髪が紫になっているし、みつあみにもなっている。刈り上げてもいる。  漂う陽キャ感に、顔が引き攣った。 「ヒッ……」 「すいません、急いでるんです」  彼は私を退けて走り去ろうとした。  でも。  彼を行かせちゃいけないと、頭のどこかで思った。 「……行かせません」  私は狭くて白い廊下で両手を広げ、行く道を遮る。扉は開いたままだし、扉、私、男の人って感じの並びだから万が一抜けられても扉で時間を取るはず……! 「そうですか……そうですよね。あなたもAliceの一員。そのマークの数を見れば、あなたも相当な立場の人だとわかる」  彼は私のカーディガンを見て目を細めた。 「ですがこちらも愛する娘のために動いているのです。そこを退いてくれませんか」  その一言で、私の中の何かが嫌な音を立てた。  ──あぁ。この人は幸せなんだ。  その事実だけで、私に対抗心が生まれてしまった。  ──絶対に、通すものか。  私は彼を睨んだ。 「……どうしても、ですか」  彼は少し悲しそうな顔をした。  彼が何を持ってきているかはわからない。それでも……私を認めてくれたアリスのために、この人を止めないといけない! 「いたぞ!あそこだ!」 「『シラユキ』さん!あのスーツの男を捕まえてください!」  後ろから飛んできた声に、彼は苦い顔をする。  ──もしかして……。ここをオカルト教団だとわかっていながら、武器を何も持ってきてなかったの?  そう思い、私より背の高い彼の顔を見た。 「お願いします!通してください!!」  彼は懇願するも、タイムリミットは──  ……もう、ゼロになっていた。 「手こずらせやがって。来い!」 「…………!」  Aliceの人たちは、不思議な能力を使う。特に『♡』の人たちは、誰かが逃げないようにと拘束系や暗示系に特化している。なので、1人でも充分なのだが……あぁ、かわいそうに。4人くらいに追われていたのだろう、様々な効果が現れていた。  さっきまで敵対心がMAXだった顔は、熱に浮かされたような顔に。  体の周りには白いモヤが発生し、まるで空間に固定するかのように彼の手や足、腰などにまとわりついていたり。彼の顔は、何の為か斜め上を見るように固定された。  それを確認したら次の人が来た。  彼の目の前に突然現れた赤い光の玉が一度強く光ったかと思うと、彼はガクンと意識を手放した。どうやら光を見せるためだったようだ。  最後の1人がモヤだけで固定された彼の体を、その異形と化した腕で持ち上げ、他2人を連れて去っていってしまった。  鮮やかすぎる。 「………………」  私がその後ろ姿をぽけー……っと見ていると、残った1人が話しかけてきた。 「失礼しました、『シラユキ』さん。ご協力、感謝します」 「い、いえ……」  偶然だったとは言えない。ここは最低限の言葉を貫こう。 「では」  そう言って、廊下は私以外誰もいなくなった。  ──愛する娘のために。  彼の言葉がフラッシュバックする。  あんなことになっても、彼が幸せなのは変わらない。  ああ。ああ。私が幸せじゃないばっかりに。
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