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中学にあがった。
中学校は5つの小学校からなり,生徒数は1学年100以上。今思い返せばまだまだ田舎で生徒数は少ないが,当時の僕にはあまりに環境が違いすぎて,どうしていいかわからなくなった。文字どうりどうしていいかわからなかった。自分の存在が宙に浮いてしまったかのように錯覚した。それはまるで酔いにも似た混乱そのものだった。
僕はあの日のことを思い出す。春特有の薄く色づいた青空が廊下の窓枠いっぱいに広がっていた日だった。
「ねえ,君,何さん?」
目の焦点をとっさに声のしたほうに合わせると,見知らぬ女子生徒3人が僕の瞳を見つめ返してきた。
ふいに僕は目をそらした。
「えっと,○○です」
「ふーん,なんで敬語なの」
「いや,別に」
面白っ,と3人が笑うと,僕はなぜだかほっとした。その直後,この一部始終を同じ小学校の生徒に見られてやしまいか不安になり,いてもたってもいられなくなった。
彼女らと交わした会話は覚えていない。ただの些細な会話だったろう。みんな,他の小学校生徒に対して興味があっただけだ。知らない子にただ挨拶をしただけ。
誰にとってもそれだけの話。
でも僕には違った。
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