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第1章
人生において良いことと悪いことは、同じくらい起こる。これは前世で俺の母親が自分自身に言い聞かせていた言葉だ。俺をみごもって男に捨てられた日から、一日三時間かけて丹念に化粧をし、その日会ったばかりの男に抱かれる日々を送っていた女の呪文。
学も教養もない母親の言葉はどれも説得力のないものばかりだったが、これに関しては俺も内心同意していた。良いことがあれば悪いことも同じくらいある。起こるタイミングはバラバラなので同じくらいには思えないが、きっと死んだあとで人生をはじめから終わりまで思い出してみればわかるのだと思っていた。
だからときどきアニメで見かける、最悪の人生を送っていた人間が転生したらチートだった、みたいなのは、きっと前世で起きた悪いことと同じくらい、来世で良いことが起きているのだろう。
だから俺にだってチートスキルがあってもいいと思う。いや、きっとある。だってそうだろう。前世の記憶を持ったままこんな人目を避けるような森の中で生活させられてるんだ。何かこの世界を大きく動かすようなチートスキルが備わっているに違いない。
一生遊んで暮らすために魔王を倒す決意をし、十五の儀式とやらに参加するために森を出て、半日かけて第一村のど真ん中にある施設に来た。
俺が住んでいる森を含め、五つの村に住む十五歳の男女が今日この施設に一斉に集う。ありがたい村長の話を三十分ほど聞いたのち白い錠剤を飲まされ、棺のようなサイズの箱の中に入るように促された。
「これで、本当にスキルがわかるのか?」
スキルの覚醒っていうくらいだから、てっきり神聖な儀式を受けてオーラに包まれたり、魔力値が爆発的に高くなったりするものだと思っていた。しかし実際はとても地味な儀式だった。箱と薬を使って判明したスキルは明日の朝、一斉に通知されるらしい。それまではこの集会所にある二階の宿に泊まる。
五分もしないうちに箱から出ると、スキル判定員の魔導師に宿泊部屋の番号が記された紙を渡された。眼鏡をかけた青い髪の美女だった。二階に上がり紙と同じ番号の部屋に入る。
「失礼しまーす」
相部屋だと聞いていたので、念の為ノックをしてからドアを開ける。広々とした室内にはすでに二人の男がソファに座っていた。
「あ、もう一人来た!」
二人のうち背の低い男が俺を見るなりソファから立ち上がり、短い金色の髪の毛を揺らしながらわざわざこちらに向かって来た。
「はじめまして! 俺はフィオル・バンデット。第四村の出身なんだ。あなたの名前は?」
「え、ああ、俺はユキチ・ウォールデン。ユキって呼んでくれ」
「ユキチ? 変わった名前だね」
「ソウデスカネ」
この世界じゃなかったら、そんなに違和感ないのにな。むしろ崇められるぞ、いろんな意味で。
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