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学校に通っていないせいか、魔王がどれほどの脅威なのかうまく想像できない。
唯一、俺がわかっているのは、この国はその昔突如として現れた魔王によってすべてを大きく変えられてしまったというもの。その代表が法律だ。魔王はこの国の法律を取り上げて、自分に都合のいい法律を制定した。魔王を倒し本来の法律を取り戻すことでこの国はようやく安寧の時を得る。
正直なことを言えば、魔王なんか倒さなくても森に住んでいればそれなりに落ち着いた生活が送れるので、みんな森に住めば良いと思う
「魔王ってそんなにやばいのか……」
「そうだね。魔王がいなかったら、この国はもっと平和だったはずだ」
フィオルの可愛らしい顔に影りが見える。もしかして魔王がドラゴンに誰が大切な人を殺されたのだろうか。いや、それだけではない。この国には魔王が引き連れてきた魔族がいる。もしかしたらそいつらに……。
「魔王を含めた魔族は、人間を壊していいおもちゃくらいにしか思ってないんだ」
たしかにそうだ。でも大丈夫。何たって俺は転生者だ。間違いなく最強最悪のチートスキルが覚醒するわけで、魔王もちょちょいのちょいで一発K.Oだ。
「そんな世界はいつか終わる。俺はそう信じてる」
「そうだね。俺もそう信じてるよ」
フィオルが俺の両手を握って、嬉しそうに笑っている。ソファに座ったままのローリーが一度こちらを見たが、すぐにまた窓に視線を戻した。さきほどまで青い空が広がっていたはずなのに、すでに外はオレンジ色に染まりかけている。
「ところで、あと一人はまだかな」
「え、まだいるのか?」
「うん。四人部屋って聞いてるよ」
四人での相部屋といってもこの広さで、それも一泊だけだ。特に気にするほどでもないだろう。
「まあ、そのうち来るだろう。俺は疲れたから寝室で一休みするよ」
「わかった。夕飯の時間になったら起こすね」
「ありがとう」
リビングの隣にある寝室に入ると、木製のベッドが四つ並んでいた。すでにフィオルとローリーの荷物がそれぞれ置かれていたので、俺は空いているベッドに荷物を置いた。
荷物の沈み具合を見てためしに腰をかけてみると、信じられないほどふかふかだった。
何だこれ。めちゃくちゃ寝心地いいじゃないか。森の家の、あの木の板なのか布団なのかわからないベッドとは大違いだ。これがこの国での十五歳への対応なのか。あるいは単にうちの布団が硬すぎるのか。
どちらにせよ、この布団は気持ち良すぎる。森からここに来るのはずいぶん長旅だったし、少しくらいゆっくりしてもいいよな。夕飯の時間には起こすって言われたし。
ベッドに上がるとき、靴を脱ぐのは前世の癖だ。いや、前世ではベッドどころか建物に入る際は基本的に靴を脱いでいたが、この国は土足が当たり前なので、家の中でも靴を脱ぐのは抵抗がある。
ふかふかの布団に全身を預けると、すぐに眠気に襲われた。
ああ、魔王なんか倒さなくても、一生この布団の上でふかふか過ごせたら最高なんだけどな。
意識が落ちる寸前、さきほどの部屋で見た絵を思い出した。
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