真昼の夢

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 高校二年生の夏休み初日のことだ。  早朝、僕が、まだ誰もいない校庭で一人サッカーの自主練をしている時、屋上の、それも柵を乗り越えて今にも落ちそうな角に立っている制服姿の女子を見つけた。いったい誰なのか、その時は分からなかった。  急いで屋上へと向かう。屋上の扉を開くと、そこにはまだ彼女は立っていた。空に向かって飛んでいこうとする鳥のように、彼女は両手をいっぱいに広げていた。 「あいちゃん?」  僕の声で、彼女が振り向く。黒く艶やかな細い髪がふわりと風に靡かれた。  くっきりとした涙袋におさまらないくらいの涙を、彼女は流していた。  全身に変な力が入る。もしここで、僕が彼女にとって誤った言葉を選んだら、謝った行動をしてしまったら、彼女は本当に空に向かって飛んでしまうかもしれない。そう確信させるほど、彼女の表情は、はっきりとした憂いを表していた。  一言。たった一言で彼女の未来が決まる。  僕は、笑顔をつくった。 「お腹、へってない?」  彼女は、目を丸くし、その後、肩を揺すって笑った。一歩こちらへ近づき、涙を拭いて僕に言った。 「うん、」
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