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思い出を道標に⑬
外では物おじして動けなくなった情けない男。
「俺だって小領主の息子だぞ! ちょっとくらい俺の方見てくれてもいいじゃないか!」
(お前が頭を下げさえすれば、いい思いさせてやろうっていうのに)
優しくだってしてやるのに。
空回りばかりでシンシアの意中の人物には一向に昇格できないジョージが取り残されていた。
扉を開けられないように前でドンと座って誰も入って来れないようにする。
「疲れた。今日はもう、疲れちゃった」
マーガレットの喜ぶ顔は見られない。ラリサにだってあの小麦の甘さを味わって欲しかった。
もう、ない。
悔しくて泣けてくる。
だからこそ、
「キャラメル作りを成功させて、絶対この村を出ていくんだ」
泣いているところを見られたくない。
涙を拭き取って2階への階段を上っていくと、マーガレットの咳払いが大きくなって来た。
(また、咳が酷くなってるわ)
肺が痛むのか、前屈みの体勢で粗末な寝床の上に座っている。
「お母様、寝てなきゃ。また咳が出てる」
マーガレットは咳き込みながら、
「寝ていると余計に咳が出て辛くなるの」
娘の頭を撫でる。
「また、ぶたれたの?……」
見るからに細くなったマーガレットのか弱い指先が娘の怪我を思いやる。
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