思い出を道標に⑮

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思い出を道標に⑮

 それから1月後。  キワの町を衝撃が包んだ。  若い娘たちが大人数で集団を作り、小さな紙袋を片手に町を練り歩いたのだ。  人々は呆気に取られた。  紙袋に描かれたイラストは斬新で、男女が唇を近づけて愛を語り合う様子が描かれていた。  男女の(みそ)かごとを想像させるそれに、保守的な町は目を手で覆った。  が、人とはダメだと思うものほど見たくなる生き物だ。好奇心は隠しようがなく、結果指の隙間から食い入るように覗き見ることになった。  紙袋の色は虹の色に合わせて何種類もあった。赤、オレンジ、緑、黄色、紫、青、藍。それに加えてピンク。とっておきは虹の色全部の色を入れた七色。  手提げの取手部分にも同じだけの配色。  組み合わせは膨大。  自分だけの色。  自分だけの恋の色。  町中が染まった。    ケヴィンの店では、今回の宣伝に協力してくれたギルドの仲間たちも集まり、効果のほどを話し合っている。 「まさか、娘たちを使って町中を闊歩させるなんて。こんな大掛かりに宣伝するとはな」  シンシアはギルドの仲間の1人から、感嘆の声を掛けられた。 「どんな悪さも、みんなでやれば怖くないわ。町中で広まれば、恥ずかしいっていう気持ちよりも新しいものに触れたいっていう思いの方が強くなるものよ」  気をよくした仲間たちからの期待は大きい。
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