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思い出を道標に⑯
「両隣町まで噂が浸透している。キャラメルの出来はいいんだ。宣伝も効いている。これは売れるぞ」
「買い付けの商談が後を立たない」
「入れ物を紙袋にしたのが良かったな。色が鮮やかで目を引くし、この辺りには無い行き過ぎたデザインも2度見、3度見してしまう。持って歩くから視覚情報が入るしな」
商売に特化したギルドからの褒め言葉は、実は町の反応が誰よりも気掛かりで緊張していたシンシアをホッとさせてくれる。
「組み合わせがたくさんあるから袋だけでも集めたくならない? 人は収集癖があるから、そこも狙っているんだけど」
聞いていたケヴィンの父、ラドルフから
「そんなことまで! お前、でかしたな」
肩を組まれ、頭をクシャクシャとされる。手荒い歓迎が素直に嬉しかった。
嬉しい。
嬉しい。
みんなを笑顔に出来たこと。みなで顔を突き合わせて、今日の成果を語る。
「どの味のキャラメルが売れてる?」
「あれ、あれだよ。初めてのキスの味」
「イチゴね。色がかわいいもの」
「よくもまあ、いかがわしい謳い文句を付けたもんだ」
言いつつも、それだけ若い女の子たちは恋に憧れているという動かぬ証拠だ。
「反対にシナモンと、ジンジャーは手を出しづらいようだな。味の想像が難しいんだろう」
「味には自信があるのに」
確実に口に入れてもらうにはどうすればいいものやら。一度食べてもらえさえすれば、商品の良さは必ず伝わる。
そのひと口目が高い壁となって立ちはだかる。
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