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第7章
その時場内が真っ暗になり、映画が始まった。私は仕方なくスクリーンに視線を移した。
「お待たせしました」
暫くすると、主人公が友達の友達の友達に呼び出されて喫茶店に入った場面になった。
「最近は友達の友達をいとこ友というらしいですね」
「僕たちはその更に友達ですから何というんですか?」
「はとこ友というらしいです」
「はとこ友?」
「ええ」
「まさか更にその友達にも何か呼び名があるとか?」
「はい。ご期待通りあります」
「何ていうんですか?」
「みいとこ友です」
「何?」
(あ)
私はその時、その「何?」のイントネーションに反応した。
「みいとこ友です」
「それって三つのいとこという意味ですか?」
「はい」
「じゃあ四つ目のいとこもあるんですか?」
「はい。よいとこ友、いついとこ友、むついとこ友となるそうです」
「すごいですね」
「まあ友達の友達くらいならまだしも、それが友達の友達の友達の友達の友達の友達の友達なんて赤の他人以外の何者でもありませんから」
「確かに」
「でしょ?」
「でもそんな他人の中に大事な人が突然現れるのが人生ですから」
「それはそうですが」
「例えばななみさん、君です」
「ななみ?」
「ななみさん、ありがとう」
そのシーンはそこで終わった。それ以降、主人公の友達の友達の友達は登場しなかった。あの「何?」のアクセント、そしてあの声、あれは間違いなく電話の彼だった。
映画はエンドロールの最後に、「この映画を主人公の友達の友達の友達に捧げる」と紹介された。そしてそれに続いてこんなストーリーが画面に流れた。
「この映画の最初の公開の時、彼は交通事故に遭って急逝しました。彼のななみさんへの思いをこの映画のワンシーンで伝えるという演出を試みたのですが、その時彼は既にこの世にはいなかったのです」
映画が終わり、場内が明るくなると隣の人は私に会釈をして席を立った。しかし私はまるで化石になってしまった様にその場で固まってしまった。そんな私に逸子が声を掛けた。
「ななみの隣に座ってた人、いま思い出した。あの人って映画監督の成田幹夫だよ。確かこの映画がデビュー作だったはずだよ」
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