ななみさん、ありがとう

3/7
前へ
/7ページ
次へ
第3章 私とその人が出会ったのはSNSだった。チャットで話を始めるのにそれほど時間が掛からなかった。そして相手の声が聞きたくなって、電話を掛け合うようになるのもそれから直ぐだった。 「ななみさん、今度映画を観に行きませんか?」 「え?」  私は信の突然の誘いに固まった。 (会うの?)  私たちが盛り上がったのは、同郷だったということだった。そして今は都会に出て来たものの、それほど遠くないところに住んでいるということだった。 「渋谷だったらお互い1時間くらいで行けるでしょう?」 「渋谷で会うの?」 「ううん。でも同じ映画を観るんだよ」 「どういう意味?」  私は彼が何を言っているのかわからなかった。 「同じ映画を同じ映画館の同じ回に観るんだよ。でも待ち合わせはしない。お互い別々の席で勝手に観るんだ。だからななみさんがどこに座っていて、どんな人かはわからない。勿論僕のこともわからない」 「それで?」 「それでその夜にまたこうして映画の感想を話そうよ」  私はそれだったら受けてもいいと思った。 「うん。いいよ。なんか面白そうだし」 「じゃあ、何を観ようか?」 「私、『飛ぶ鳥、後は知らない』が観たいなって思ってた」 「じゃあそれ!」 「渋谷だと渋谷シネマで上映してるよ」 「いつにする?」 「いつがいいかな」 「じゃあ明日仕事が終わった後」 「明日?」 「うん」 「いいよ」  ネットで知らべると19時の回があったのでそれにした。その夜なかなか眠れなかった。でも気が付くと朝になっていた。出勤だったのでお洒落をしていくわけにはいかなかったけど、彼と会うわけではなかったので、それでも構わないと思った。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加