1人が本棚に入れています
本棚に追加
第3章
私とその人が出会ったのはSNSだった。チャットで話を始めるのにそれほど時間が掛からなかった。そして相手の声が聞きたくなって、電話を掛け合うようになるのもそれから直ぐだった。
「ななみさん、今度映画を観に行きませんか?」
「え?」
私は信の突然の誘いに固まった。
(会うの?)
私たちが盛り上がったのは、同郷だったということだった。そして今は都会に出て来たものの、それほど遠くないところに住んでいるということだった。
「渋谷だったらお互い1時間くらいで行けるでしょう?」
「渋谷で会うの?」
「ううん。でも同じ映画を観るんだよ」
「どういう意味?」
私は彼が何を言っているのかわからなかった。
「同じ映画を同じ映画館の同じ回に観るんだよ。でも待ち合わせはしない。お互い別々の席で勝手に観るんだ。だからななみさんがどこに座っていて、どんな人かはわからない。勿論僕のこともわからない」
「それで?」
「それでその夜にまたこうして映画の感想を話そうよ」
私はそれだったら受けてもいいと思った。
「うん。いいよ。なんか面白そうだし」
「じゃあ、何を観ようか?」
「私、『飛ぶ鳥、後は知らない』が観たいなって思ってた」
「じゃあそれ!」
「渋谷だと渋谷シネマで上映してるよ」
「いつにする?」
「いつがいいかな」
「じゃあ明日仕事が終わった後」
「明日?」
「うん」
「いいよ」
ネットで知らべると19時の回があったのでそれにした。その夜なかなか眠れなかった。でも気が付くと朝になっていた。出勤だったのでお洒落をしていくわけにはいかなかったけど、彼と会うわけではなかったので、それでも構わないと思った。
最初のコメントを投稿しよう!