ななみさん、ありがとう

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第4章  それでも退社時間が近づくと落ち着かなくなった。会社の同僚からは彼氏と会うのかと聞かれたが違うと答えた。 「でも今日のななみ、なんか変だよ」 「そう?」 「うん。どっか行くの?」 「うん」 「どこ?」 「映画」 「映画って、誰かとでしょ?」 「ううん」 「え、じゃあ一人で観に行くの?」 「うん」 「なんで?」 「なんでって、別にいいでしょ?」  実際私は不安で一杯だった。もしかしたら彼にからかわれているのかもしれない。今夜電話をした時に、私がその気になって一人で映画を観たことを馬鹿にされるかもしれない。  でも、それでも私は行かなくていけないと思った。それは約束したから。仮に彼がイタズラ半分の思いつきでしたことでも、私は交わした約束は決して破ってはいけないと思った。 「じゃあ、私も行っていい?」 「だめ」 「どうして? やっぱり誰かと一緒なんでしょ?」 「私は一人で行きたいの」  映画館に入り、適当な席に着くと私は周りを見回した。既にたくさんの客がいた。この中に彼がいるのだろうか。やがて場内が暗くなり映画が始まった。私は一気にその映画に引き込まれて行った。映画は期待していた以上に面白かった。それでしばらく彼の存在を忘れた。映画が終わって退場する時に出口で待っていたらそこを彼が通るかもしれないと思った。でもお互いがお互いのことを知らないし、意味がないからと諦めることにした。その夜、私は胸をときめかせながら彼からの電話を待った。 「映画、良かったね」  そしてその第一声に安心した。 (どの辺りに座ってたの?)  私はそう聞きたかったけど止めた。私は一応前後左右に座っていた若い男性をチェックしていた。もしその中の誰かが彼だったらと思ったからだ。多分、彼も周囲の人をチェックしていただろう。すると私がばれてしまう。あんな普通の格好をした私を見られたことになる。それはいやだった。私たちはこうやってデートとは言えないデートを重ねた。
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