ななみさん、ありがとう

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ななみさん、ありがとう 第1章 「ななみ、映画に行こうよ」  その日、私は突然映画に誘われた。 「何の映画?」 「塵も積もればゴミの山」 「行かない」 「面白いらしいよ」 「行かない」 「観たことあるの?」 「うん。でも途中まで」 「つまらなかった?」 「知らない」 「知らないってどういうこと?」 「途中で出て来ちゃったから」 「じゃあつまらなかったっていうことじゃない」 「そういうわけじゃないの」  私を映画に誘ったのは今私が勤めている会社の同僚の逸子だった。高校も大学も一緒ではなかったけど入社早々から気が合って今に至っている。  私の勤め先は有楽町にある出版社で、私はそこで庶務の仕事をしている。会社の近くに大きな映画館があるけど、私は映画が嫌いだった。それは暗い中で見ず知らずの他人と長い時間席が隣になるのが耐えられなかったからだ。 「通勤電車だって同じでしょ?」  逸子はそう言った。 「でも車内は暗くないよ」 「ななみ、お化けが怖い?」 「どうして?」 「お化けが怖いから暗いとこがダメなんでしょ?」 「違うって」 「そうよ。映画が嫌いなんじゃなくて、お化けが怖いから暗いとこがダメなんでしょ。それじゃまるで、お子ちゃまよね」  私はそうじゃないことを証明する為に嫌々逸子に付き合うことにした。私がその映画を観たくなかったのは、実はその映画に嫌な思い出があったからだ。しかしその理由は逸子には言えなかった。 「ばっかじゃないの?」  それはきっとそう言われるからだ。だからそれは黙っていた。そしてその映画が嫌いだということ言わずに、映画そのものが嫌いだということにした。 「この映画って10年前のリバイバルだけど、当時はすごい人気だったんだって?」 「そうらしいね」  映画館の席に着くと、逸子は立て板に水の如くその映画の話を始めた。 「この前、同じ原作者の映画が流行ったでしょ? この映画ってその原作者の原点じゃない? だからかな?」 「そうね」 「私もその『その時君はあの時』を観て、それでこの映画を観たいって思ったの」 「そうなんだ」 「私、すっごく楽しみにしてたんだ。ななみ、だから今日は途中で席を立たないでね」 「え?」   逸子はそう言うとさっき売店で買ったパンフレットを開いた。
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