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声をかけてきたのはごく普通の男性だったが、これまで男性に声をかけられたことがない加奈子は、真っ赤になって
「いえ、違います。」
と、言って、紗栄子の手を掴んで逃げだした。
紗栄子は、面白がっていた。
「華子さんって、よっぽど似ている人がいるのね。」
「華子は私の姉なの。もう亡くなっているのよ。」
「あぁ、だからあんなに驚いていたのね。」
「えぇ・・・・」
加奈子は、華子の死の原因をまだ紗栄子には話したくはなかった。
それは、遺体が損壊されていたからなのだ。
加奈子は華子の捜査を担当している刑事の佐々木に今夜の事を連絡した。
佐々木はあまり華子に似た格好で出歩かないように加奈子に言った。
華子の死因は縊死。つまり首を絞められて殺されていたのだ。遺体は亡くなった後に、両手が手首の上から切り取られていた。
無くなった手は、まだ見つかっていない。
加奈子はそれでも、あの日に街を歩いた時の快感が忘れられなかった。
紗栄子に化粧を教わり、度々華子そっくりの自分になって夜の街を歩いた。
ある夜、また最初の晩に声をかけてきた男性が、
「華子!」
と、また声をかけてきた。
「あの、華子は私の姉です。そんなに似ていますか?」
男性はほっとしたような顔をして心の中で呟いた。
『あぁ、よかった。そうだよ。華子は俺が殺したはずなんだ。でも、妹か。華子によく似た美しい手をしている。
ほしい。この手も欲しい。』
「あぁ、妹さんだったの。本当によく似ている。特にその細くて長い指なんてそっくりだね。」
そういうなり、男は加奈子の首を絞め、自宅へと連れ去った。
佐々木は加奈子に尾行をつけさせていたので、その場で男を取り押さえようとしていたのだが、車に加奈子を乗せ、逃げられてしまった。
佐々木は急いで男の家まで行ったが、すでに手遅れだった。
男は氷詰めにされた、細長い指を持った沢山の手首から先の氷柱に囲まれ、倒れていた。
一番新しい獲物の加奈子から切り取った指を口にくわえる前に毒物を飲んだのだろう。すでに息はなかった。
加奈子は両手を切り取られてはいたが、一命をとりとめた。そして、男の口から急いで切り取られた手首を取り戻し、手術で元通りにつなげられた。
この近隣で起こっていた手首から先だけが消えていた遺体はこの男が犯人に違いない。
この男は美しい手指を手に入れるために、美しい手指を持った女性をこの世から消し去っていたのだ。
【了】
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