タイムマシンをつくった理由

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 ようやく中学生の時代にまで差し掛かった時、男の前に一人の少女の姿が現れた。とても美しく可憐な少女だった。彼女は一体誰なのか…自分とはどういう関係だったのか…男は蘇ってきた記憶をさらに巡った。だが、記憶が蘇っていく事に、隠されていた恐ろしい過去が徐々に顕在化し始めた。  男が見た少女は、自殺したのである。原因はある残酷な出来事がキッカケだった。  少女はある少年に執拗に言い寄られていた。その少年は、男もよく知っている人物で、普段は教師達から好かれる優等生を繕っていたが、その裏では自分より弱い立場の人間を蔑み、悪質な虐めを行っていた邪智暴虐な人間だった。そんな彼の正体を知っていた少女は、少年の誘いを拒み続けた。怒った少年は悪友たちと一緒に一人帰宅する少女を待ち伏せし、学校近くの人気のない神社の境内へと連れ込み、彼女をレイプしたのだ。  翌日、少女が自宅の部屋で手首を切って亡くなったと、担任の教師がホームルームで報告した…。  その日の帰り道に男は事故に遭い、記憶を失ったのだった。 「なんてことだ…」  薬が切れて我に返った男は、あまりにも惨たらしい真実に驚愕した。  男は記憶が戻った事を話すと、両親はとても喜んだ。だが、男は少女の事は一切口にしなかった。  それから2年後、男は科学大学の機械工学科に入学し、あるマシンの完成に勤しんだ。それがタイムマシンである。  それは電車に乗っている時の事だった。小学生が読んでいた児童漫画に描かれていたタイムマシンの絵が偶々目に入り、男は思った。 『そうだ…タイムマシンを作れば、少女を助けることができるのではないだろうか?』  男は大学入学後、タイムマシンについての文献を探そうと大学の図書館や市立図書館を探し回った。そして男は、タイムマシンの研究論文が掲載された科学雑誌を見つけた。  男は雑誌を手にし、友人を集めてタイムマシン製作の協力を求めた。 「実に馬鹿げている!」物理学専攻の友人が男に言い放った。「君は本気でタイムマシンなんて作ろうと思ってるのか?」 「本気だ」 「教授たちが聞いたら大笑いだな」 「その通り。まるでSF小説か漫画だと、鼻から相手にされなかったよ」 「当然さ」物理学の友人は冷たく返した。「確かに相対性理論に従えば、タイムトラベルは決して不可能ではないと言われている。けどそれは未来に行く場合の話であって、過去へ戻るなんて事は不可能なんだ!」 「過去に行く方法はある」  男は科学雑誌の研究論文を友人たちに見せた。そこにはアインシュタインとローゼンが1936年に発表した、時空の歪みによって現地点から別の時間帯へと移動できる抜け道『アインシュタインーローゼン橋』、即ちワームホールについての詳細が事細かに書かれていた。 「このワームホールを発生させれば過去へ行けるはずだ」 「そんなものどうやって作るんだ?」 「渦を利用するんだ。大学の飛び込みプールに激しい渦を発生させて、そこにタイムトラベルに要するだけの高圧電流を流せば、ワームホールを作り出す事が出来るかもしれない」 「無茶苦茶な!だいいちその費用はどうする気だ?俺たちはまだ学生だぞ?」 「俺は財閥の息子だ。それはこっちでなんとかする。どうだ皆、騙されたと思ってやってみないか?それにもしこれが成功すれば、俺たちは忽ちに世間の注目を浴びるだろうさ。誰も成しえなかった快挙を遂げるんだからな。そうなれば日本…いや、世界中の科学者たちから称賛されるんだ!どうだい?やってみるかい?」  男の熱意に負け、友人たちは彼に協力する事にした。物理学の友人も、馬鹿馬鹿しいとは思いつつも承諾した。 こうして、男たちの無謀な時間旅行の計画がスタートしたのだった。    
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