タイムマシンをつくった理由

3/4
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
 男は飛び込みプールに渦を作り出すのに、マグネットスターラー(容器に入れた攪拌子を磁力で回転し、渦を発生させる装置)を応用した大型電磁気渦発生装置と、特殊金属による直径1.5mの球体型の乗り物を考案した。  製作に必要な材料を調達した男たちは、タイムマシン製作に取り掛かった。男の的確な指示のもと、マシンは作られていった。しかし、それには多大な時間と労力が必要とされた。それでも友人たちは、それぞれの研究・試験勉強・就職活動等を両立しながら開発に携わった。  製作開始から丸3年、大学卒業間近となった日に、ついにタイムマシンは完成した。 「やったぞ…ついにできた!さっそくテストしてみよう!」  男たちは休日に貸し切った飛び込みプールの底に電磁気渦発生装置を設置し、男は球体に乗り込んだ。 「いいか?ワームホールのトンネルは5分しか持たない。それまでに過去に行った証拠の写真を撮って来てくれ。いいな?」  物理学の友人は、男にスマホを渡した。 「わかった。それじゃ行ってくる」  男は球体内に設備されたヘルメットを装着した。ヘルメットには、男が頭に思い浮かべた移動場所を特定するAIが内蔵されていた。男はまず到達点のプール(去年の飛び込みプール)を思い浮かべてAIにインプットさせると、現在の時間帯と過去の時間帯の表示を確認し、移動する年月日と時間をタブレットに入力した。準備完了の合図を送ると、友人たちは電磁気渦発生装置を作動させた。強力な磁場で2mの攪拌子が高速回転して大きな渦を作り、回転と同時に高圧電流が水の中を駆け巡った。球体は徐々に波に流されて行き、渦の中心に飲み込まれた。友人たちはノートパソコンのレーダーから球体を表した光点が渦から消えたのを確認した。 「やったぞ!成功だ!」 「いや待て、問題はこの後だ。あいつが無事に戻って来れるかどうか…」物理学の友人がそう言うと、全員固唾を飲んで男の帰りを待った。  出発から5分が経過した。友人たちはレーダーを確認すると、渦の中から再びマシンの反応が現れた。友人たちは撹拌子を逆回転させて渦を打ち消し、装置のスイッチを切った。  男の乗った球体は水面に浮上し、友人たちのいるプールサイドまで推進した。  男は球体から出ると、友人たちに過去で撮ってきた写真を見せた。 「これは、まだ建設途中の新校舎だ!」 「実験は大成功だ!!」  男たちは大喜びした。 「さっそく教授に報告しよう!」と物理学の友人が言うと、男は止めた。 「待ってくれ。その前にやらなきゃならない事があるんだ」 「え?やらなきゃならない事ってなんだよ」 「終わってから話すよ。もう一度装置を動かしてくれ」そう言うと男は再び球体に乗り込んだ。 「お、おい待ってくれよ!どういうことだい?」 「頼むよ。行かせてくれ…」男は友人たちに懇願した。 「わ…分かったよ…」  友人たちは疑問に思いつつも、男の言うとおりに装置を作動させた。  男はヘルメットをかぶり、少女が被害を受けた学校近くの神社を思い浮かべた。そして、少女が被害を受ける2分前に時間をセットし、渦の中へと入っていった。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!