田辺航司、というひと

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田辺航司、というひと

金曜日の仕事終わり。私は一週間のご褒美に自分を甘やかす。 それは二年ほど前、親しかった同期の一人が他県のグループ会社に出向となったあと、見つけたワインバー「炎」。 何かある度に仲良く集まっていた同期たちは、異動や結婚、子育てやらで次第に集まらなくなり、自分のストレスは自分で始末するしかなくなっていった。そんな時、お店の名前に惹かれて、ふらり一人寄ったのが、このお店。 店内は電球色のオレンジ色が暖かい雰囲気を作る。カウンターも椅子もテーブルも木製で、バーには少し似つかわしくない家庭的な雰囲気で、三十路女が一人でも居心地が良い。 私の父くらいだろうか。たぶん60代のマスターが、以前イタリアンのシェフだったというその腕をふるい、ワインにあう料理を出してくれるのも魅力だ。 今日は、癒されたいというより、ちょっとした自分へのご褒美だ。 来月行われる会社の創立50周年パーティ。私の所属する秘書室は当然ながら、秘書室の属する総務経理部もほぼ全員体制だ。 しかし、それだけでは足りず、というか、たくさんの来賓をお招きするにあたり、あまり外部と接触がない我々だけでは受付が不安となり、営業部にも手伝いをお願いしようとなった。 もちろん、営業だからといって、いつも会う相手は担当の平社員で行うだろうから、パーティに招くような役員の顔はわからないかも知れない。 しかし、我々よりは、社名でピンとくるだろうし、パーティ自体、営業活動と思えば。ということで、今日の昼間、営業部の第一グループリーダーにお願いに行った。 そして、無事、交渉成立したのである。
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