生命の樹

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 星を離れる宇宙船の中で、ライナは窓から広がる星々の海を眺めていた。手にしている銀の樹の枝を握りしめて、今まで知らなかった知識が頭の中に溢れてくるのを感じていた。 「えっ? 何なの? この感覚! 何で勉強もしていないことを私は知ってるの?」 ビービービービー  その時、船内のシステムが突然異常を警告し始めた。コンソールに表示されたデータを見たライナは、目を丸くして尻餅をついた。  生命の樹は光り輝き、ちょうど握りしめていた部分で、二つに分かれてぽさりと床に落ちた。機器のデジタル表示がクルクルと動き、航路を外れて航行している。  銀の樹の枝が放つエネルギーが、宇宙船のシステムに干渉し、航行に影響を与えているのだろうか、と考えるライナの耳にコクピットの機械音声が告げた。 『目的地を惑星ガエラに変更しました』  宇宙船のコースは、地球ではなく全く未知の惑星へと変更されていたのだ。 「惑星ガエラ? どういうこと?」    システムは正常に戻り、コクピットは静寂に包まれていた。はっと息を飲んだライナは周りをキョロキョロと目で探った。探し物はすぐに床の上に見つかった。  フロアに落ちた銀の樹の枝は、部屋の光によってその輝きを増していた。  ゆっくりとしゃがみ込み、ライナはそっと枝を手に取った。枝を握った瞬間、彼女は安堵の表情を浮かべたが、その顔はすぐに不安で歪んだ。  二つに分かれた枝から一つずつ実をもいだ彼女の呼吸はわずかに止まった。実をもいだ部分に一瞬、変化が起きないように見えたからだ。  しかし、すぐにそこには新しい実がついた。彼女の顔に再び安堵の表情が戻った。 「とにかく、ジャスティンに枝を届けなきゃ」  ライナは、二つに分かれた片方の枝をカプセルに入れ、手紙をつけて地球の我が家の庭に向けて発射した。  頭の中で、銀の樹の精霊の声がこだました。 「ライナ、惑星ガエラの民が飢餓に苦しんでいます。助けに行ってください」  この枝は彼女を、人類未踏の新しい惑星へと導いていたのだ。 「そういうことなのですね。わかりました」  さっきまで、瞳孔が開き、心臓が早打ちしていたライナの呼吸は平静に戻っていた。その瞳には、燃えるような光が宿っていた。  計器の点検をすべて終えたライナは、小さくため息をついた。 「精霊さん、あなたはあの時、わざと私を道に迷わせて……。ううん。なんでもないわ」  そして、顔を上げて、前方の星の海を見つめて、こぶしを握りしめた。 「まだ見ぬ誰かのために、私は生きるのよ」  この旅は彼女の人生における新たな章の始まりであり、彼女が手にした宇宙の叡智が導く未知の世界への冒険だった。  了
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