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獅堂の告白
帰国してからも、度々翔優は藤波にせがんだ。
椅子に座っているときに、跪いて腿に触れて上目遣いをしてきたらそういう意味だ。
面倒だったので好きなようにさせた。
彼にとって、自分の口は性器なのだ。
藤波のが入ることで、擬似的に性交している。
見た目は僕が犯してるように見えるが、実際は逆で、犯されているのは藤波の方なのだ。
♢♢♢
しばらくして、僕はまた坂上に同人誌を贈った。
フランス貴族と革命家の恋物語だ。
二人は幼馴染だが、身分を超えて密かに愛し合っていた。
片方が革命家の道を歩み、貴族の方は自分の身分を考えて一度は成就を諦める。
だが、二人は純愛をとって、貴族は身分を捨て、二人で生きる道をとる。
「要芽……今回のも良かったよ……。俺はハッピーエンドが好きだからさ」
坂上が言う。
「まあ、ご都合主義だけど」
「小説なんて、みんなそうだろ?だからこそ、ハッピーエンドであってほしいんだ。今回は、誰がモデルなの?」
「革命家は、翔優だよ」
革命家の彼は、どん底から這い上がる。
革命の原動力である怒りと強い意志。
翔優は、革命家のように直接社会に訴えかけはしないが、演奏の中にそれを感じた。
フランス人を喜ばせることができたのだ。
貴族の彼を抱くシーンの強引さも、翔優のイメージを使った。
「革命家の方なのか。意外だけど、フランスでの活躍を聞くと案外そうかもね。じゃあ、貴族の方は要芽ってこと?」
「なんで僕が翔優なんかと絡まなきゃいけないんだよ。それに、僕はその貴族のように女々しくもないし、優柔不断でもない」
「そう描かれてるけどさ、こういう創作って、自分が出るじゃないか」
「僕は男色じゃないけど、書いてる。」
「殺人をしなくても、殺人事件は書ける、ってかんじ?でも、逆にフィクションだから素の自分が出ることもあるよ」
はからずも小説を書くこと自体は楽しかった。
書くために資料を読むことは僕の人生を豊かにしたし、登場人物の思いがけない言動に自分が感動することもある。
文才があるとは思わなかったが、大学は文学部に進むことを決めた。
その後、坂上が、これまでの作品を製本してプレゼントしてくれた。
印刷所で作られて、しっかりとした本になっていた。
ある日、何の気なしに置いていたその本を、獅堂が読んでいた。
「これ、お前が書いたのか?」
「ああ。男色だけど」
「面白かったよ」
「それはどうも。 」
「この小説ほどは面白くないんだが、俺の話を聞いてくれないか?」
獅堂に隠し子がいる……正確には、いるかもしれない、という話だった。
驚きはしなかった。
獅堂は誠実な人間だが、誰だって過ちを犯すことはある。
僕と翔優も、誤った道に入っている。
僕がもし翔優と出会ってなかったら……獅堂の告白を聞いて糾弾していただろう。
なぜ自分を信じてアキさんと付き合わなかったのか、と。
ある種、正論だが、そうできないのが人間だ。
それを、僕にわからせたのは翔優だ。
幼かった翔優は、性暴力から自分では逃げられない。
使用人気質の池上家は藤波家が絶対だ。
翔優は僕に欲情しているが、対等ではない。
僕も翔優の人生に、責任と哀れみを感じて逃げられない。
その気は無いに、男に犯されることを許している。
正論の通りなんて、生きられないのだ。
「獅堂、息子探しを手伝ってあげるよ。そして、見つかったら、小説にさせてくれ。たかが不倫だ。でも、不倫をした二人の愛が、つまらないものだとは思わないよ」
藤波は、獅堂が自分の秘密を打ち明けてくれたことが、ほのかに嬉しかった。
獅堂の信用足る人間になれていたのだと感じた。
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