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家政婦
翔優は、私立高校の調理科に通うことにした。
卒業後、藤波家に仕えるためだ。
フランスから帰国してからは陰気臭さがぶり返したが、高校に通い始めてからはまた笑顔が見られるようになった。
実習で作ったお菓子を持ってきたり、休日には藤波家の夕食に一品出すようになった。
藤波と坂上は、お茶をしながら翔優のお菓子をつまむのが日常になっていた。
「坂上、翔優も高校生だし、同年代同士なら手を出してもいいんじゃないのか?」
「うん、まあ、年齢的なとこはそうなんだけど……。翔優、背が伸びたよね」
「ああ、僕と同じくらいだ」
「年齢が上がっても、背が低いならいいんだけど……」
どうやら、少年度合いが下がって、坂上の好みで無くなったらしい。
「まあ、性的嗜好は、繊細なところがあるからな」
坂上に翔優を託す選択肢は無くなった。
♢♢♢
藤波は大学1年生になり、翔優は高校2年生になった。
藤波は実家を出て一人暮らしをすることになったが、家事は翔優が通いでやることになった。
高校から直接来て、料理、洗濯、掃除という感じだ。
夕飯は一緒に食べる。
今までより一緒に生活する印象が強くなった。
翔優の家事は完璧だった。
物は整理され、足りない物はない。
調理実習で習った料理を振る舞う。
フランス料理を専攻したらしい。
「ホテルに勤めたらいい」
そういうが、
「いえ、私は藤波家に仕えさせていただいて、幸せですので」
という。
もちろん、衣食住が安定していることもあるが、僕のそばにいられるからだろう。
暮らし初めて半年後、翔優は初めて牛すきやきを作った。
「ああ、これはいいね。日本酒に合う」
酒好きな坂上のおかげで、すでに酒は嗜むようになっていた。
その日、僕は機嫌が良かった。
高校時代の同人誌を、獅堂が知り合いの編集長に見せて声をかけられたのだ。
別に、小説で身を立てようとは思ってなかった。
が、せっかくのチャンスと思い、大学在学中にできる限り小説を書こうと思ったところだった。
「翔優、君も呑むかい?酒に合う料理を作るってのも大事だと思うよ」
少しだけ呑ませた。
うまいもまずいも言わない。
まだ、翔優には早かっただろう。
藤波自身も、当時は酒そのものよりも誰と呑むかが重要だった。
ただ、翔優と酒を交わしながら何かを語る日なんて、未来永劫来なそうだと思っていた。
当時、藤波は酒が出てくる小説を読みながら、話に出てくる酒とつまみを用意して夜を過ごすことにハマっていた。
その日も、ソファに座り、趣味の時間を過ごしていた。
服装も、高3の時に着物が楽だと気づいてからは、室内着は浴衣と寝巻きになっていた。
翔優がつまみを持ってくる。
いつもなら、そこで今日の勤めは終わりで帰宅する。
だが、その日は藤波の隣に座った。
「……何か用?」
話しかけたが、翔優は無言で藤波が持っていた本を取り上げてテーブルに置いた。
肩に手をかけて押し倒してくる。
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