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忠告
夕食を済ませ、ソファに座る。
翔優がつまみを持ってきた。
「翔優、話がある」
「はい」
翔優はソファの向かいに座り、藤波も座り直した。
「翔優、今なら、まだ人生をやり直せる。君は周りの大人が心配するほどじゃない。料理の腕はいいし、バイトとはいえ、ちゃんと働けている。フランス料理店の厨房に入ることもできるだろう。まともな生き方をしろ」
翔優は黙っている。
「もう少し、噛み砕いていえば、僕との体の関係をやめるんだ。独身でも結婚してもいいし、男色を続けてもいいが、僕は君の気持ちに、気持ちで応えることができない。僕なりに、人を愛せるかどうか、これまで努力してきたが、本当にそういう感性がないらしい。僕といると、君は碌な人生を送れないよ」
獅堂がアキさんを愛したように、莉音が那央を愛するように、僕は翔優を愛することができない。
「……要芽さんは……獅堂叔父さんを大切に思うように、橘さんを応援するように、私のことを想ってくれていると思っていました」
「それはそうだよ。長い付き合いだ。だからこそ言ってるんだ。君の幸せのためだ」
「……私は、要芽さんがいない人生は、幸せではありません」
「それは、幻覚だよ。幼い頃から一緒にいたから、勘違いしている」
それは、嘘だとわかっていた。
翔優は、確実に僕が好きだ。
だが、僕と一緒にいたら、ますます社会不適合になる。
翔優には、まだやり直せる時間がある。
きっと、才能もある。
こんな狭いマンションに引きこもっていてはダメなんだ。
「……いつも、私のことばかり考えていますよね。要芽さんの本当の気持ちを……教えてくれませんか?」
莉音には、本当の自分になるように説教した。
獅堂とアキさんには、本当の思いを貫いた生き方に憧れた。
「ああ……正直に言うと僕は、翔優に対する自分の気持ちがわからないんだ……。好きなら好きだと言うし、この関係が気持ち悪いなら、そう言うさ。わからない……が一番困る。だから、こんな僕の曖昧な状態に付き合わなくていいんだよ。貴重な若さを大切にするんだ」
獅堂の病気を機に、考えた。
仮に僕が先に死んだら、翔優に何が残るのか。
「……私は……」
翔優が話し始めた。
「曖昧でも、ずっと、要芽さんのそばにいたいです。邪魔と言われたら、出て行きます。私は……要芽さんの愛情が深くて広いことを知っています。だから、私一人を特別に思ってくれる日が来なくても、いいんです。そういう要芽さんが、好きなので」
きっと、翔優は、先々を考える力がないのだ。
そこに今まではたまたま僕の助言が当たった。
何を話しても、わかってはもらえまい。
「……わかったよ。僕は、忠告したからね。じいさんになってから、後悔しても遅いよ。」
翔優はクスッと笑った。
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