藤波の共同生活

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藤波の共同生活

夕食が終わり、一階の暖炉前のソファに座って紅茶を飲んでいた。 橘と那央はすでに自室に上がっていた。 今は新作のために資料を読んでいた。 資料を読む時は酒は飲まない。 なかなか新しい着想が得られず、珍しく焦っていた。 そんな煮詰まった状況もあり、二人を招き入れたところもあった。 翔優が那央にちょっかいを出したのは意外だったが、あの翔優に人間関係の広がりが出たのは良かった。 このまま、二人の関係が悪くならない程度に関わってくれればいいと藤波は思った。 メガネをテーブルに置いて、目頭を押さえた。 四人の生活の方はいいとして、問題は執筆の方だ。 自分こそ引きこもらずに、どこかに出かけた方がいいかもしれない。 「肩を揉みましょうか?」 片付けを終えた翔優が言った。 「ああ、じゃあ頼もうかな」 翔優が首筋、肩、肩甲骨と揉んでいく。 「近々、あてもなく出かけるかもしれない。執筆のために」 「はい、わかりました」 「その時は、あの二人と仲良く過ごすように」 「……わかりました」 「那央のことが気に入ったのかい?」 「いえ、単にそうしたらどうなるか、やってみたかったので」 「なるほど。それでまんまと莉音は嫉妬を駆り立てられたわけか。やるじゃないか」 あの二人にとっても、マンネリにならなくていいかもしれない。 しばらく翔優は肩揉みをして、言った。 「あの……私も、頭をなでてほしいのですが……」 翔優は、藤波の横にちょこんと座った。 「……三十路近い男が、やってもらって喜ぶことじゃないよ」 「要芽さんの小説には、そういう描写がありました」 「それは恋人同士だからだよ。僕と翔優は雇用の関係だ」 翔優はじっと藤波を見た。 この状態になると翔優はてこでも動かない。 「……わかったよ、鬱陶しいな」 藤波はさっと翔優の頭をなでた。 翔優の顔がほのかに赤らんだ。 普段あれだけ体の関係がありながら、翔優がウブな反応をしたことに藤波は驚いた。 思えば、小さい頃から頭をなでられているのは見たことがない。 「……ありがとうございます」 翔優ははにかんでいる。 「今日は……先に休ませていただきます。おやすみなさい」 そう言って翔優は二階に上がった。 翔優が体を求めずに一日が終わるなんて珍しかった。 「いや、これが普通だろ」 藤波は、こちらも珍しく独り言を言った。
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