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普段から発情期の時期が定まってなかった
原因は分かっているけど、どうしようもない
どうしても、夢を叶える為には大学に行かなきゃいけなかったし、その為にはお金が必要だったから…
学校に行く時間以外は、出来る限りのバイトをして…
休みの日は勉強と施設の手伝い
身体を労わるってことを蔑ろにしていた
抑制剤を買う金すら躊躇していたせいで、その日は大学で発情期になってしまった
入学してすぐだったから、頼れる友達も知り合いも居ない
急にきた発情期に対応出来ず、出来たことは校舎の路地裏に逃げ込むことだけ…
火照って意識が朦朧としながら、必死に見つからないように小さく蹲って隠れた
少し収まったら、急いで帰らなきゃ…
大丈夫、今日、人は…少なかったから…
ここに居たら、見つからないはずだから…
誰にも見つからないように肩を抱いて小さく蹲り、ゴミ箱の間に身を潜める
熱い呼吸を繰り返し、少しでも早くマシになってくれるのを願うも、フェロモンが溢れ出してしまう
自分には似つかわしくない、桃のような甘い香りのするフェロモン
使い古された茶色のチョーカーを押さえる
無駄だとわかっていても頸を押さえて、フェロモンが少しでも出ないで欲しいと願うしかなかった
匂いが周囲に漏れているせいで、匂いに誘われるように人が近くまで来ていた
「なんか、Ωの匂いしねぇ~?」
「こんな処で誘ってやがるビッチがいるんじゃね?」
明らかにガラの悪そうな人たちの声が聞こえる
オレのコトを探しているのがわかる
足音も声も、徐々に近付いて来ているのか、ガラガラと缶を避ける物音に心臓がバクバクする
見つかりたくない
見付けないで…
早く、何処かに行って…
祈るように口元を手で覆って息を殺す
少しでも静かにして、見つからないことを願って
「こんなゴミばっかのところ、居ても抱きたくねぇーなぁ…行こうぜ、臭い着いちまう」
諦めた声と足音が遠くに去って行くのを聞いて、やっと息を吐き出す
良かった…やっこのまま、誰にも見付からずに居れれば大丈夫
大丈夫。もう少し落ち着いたら、走って帰れば…大丈夫
火照った身体に、お腹の奥が重たい
無意識に腰が揺れてしまい、刺激を求めてしまう
「抑制剤、やっぱり買わなきゃ…
もう、ヤダなぁ…βだったら、こんな無駄なお金使わなくて済むのに…」
願いも虚しく、身体はαを求めるように熱くなってしまう
触ってもいないのに、ズボンが濡れてくるのがわかる
誰かに抱いて欲しい
たくさん突いて欲しい
満たして欲しい
浅ましい欲望に涙が出てくる
Ωになんて、産まれたくなかった…
「体調悪いのか?」
不意に頭上から声をかけられ、心臓が止まるかと思った
さっき見つからなかった安堵感と発情期のせいで頭が働いていなかったこともあり、人がこんな近くにまで来て居たことにすら気付けなかった
ヤバい、犯される…
恐る恐るオレの目の前に立っている相手を足元からゆっくり見上げる
そこには学内でも有名な彼が、心配そうな顔をしてオレを見下ろしていた
「おい、聞いてるのか?意識は…あるみたいだな」
オレに視線を合わせるようにしゃがみ込み、火照って赤くなった頬に冷たい手で触れてくる
ヒヤリとした手が気持ち良くて、無意識にその手に擦り寄ってしまう
彼は確か…、オレよりも2つ上の3年だったはず
同じ学科の人が騒いでた気がする…
どっか良いところのαで、勉強もスポーツも出来て…凄くモテるって…
α って、こんないい匂いするんだ…
彼から微かに香る好ましい匂いに身体を預けたくなってしまう
さっきから、収まるのを待っているのに、彼に触れられると身体の熱が増していくように感じる
ヤバいなぁ…発情期事故なんて、オレもこの人も最悪なことになる…
Ωがこぞって番になりたがる強いα
家柄も、本人の容姿も、αとしての質も、何もかもに恵まれた彼
自分みたいな親に捨てられた施設育ちとは雲泥の差だ
「おい、大丈夫か?この匂いは、発情期か?」
オレから出ているフェロモンの匂いに気付き、眉を顰めるのがわかる
あぁ、合わないんだろうなぁ…
そりゃ、そっか…
オレみたいなΩ、臭いだけだもんな…
なんとか距離を取る為に彼の胸を押し
「んっ…ごめ、ん。大丈夫、だから…
急にきたから、薬持ってなくて…すぐ帰るから…臭くて、ごめんなさい。大丈夫だから、ほっといて…」
熱が収まるどころか、更に身体が熱くなる
このαに抱いて欲しい
めちゃくちゃにして欲しい
頸を噛んで、番にして欲しい
「…あ、あの……なんでも、ないです…」
変なコトを口走りそうになり、慌てて口を噤む
怪訝そうな顔で見られてしまい、いたたまれない…
早く、この人から離れないと…
何か、おかしい…
いつもより、身体が、熱い…
ズボンにシミが出来ていくのがわかる程、身体が彼を求めて濡れる
なんとか壁伝いに立ち上がり、ふらつきながら路地から出て離れようとしたところ、いきなり後ろから腕を掴まれ、軽々とお姫様抱っこをされてしまう
「そんな状況でほっとけるか、さっさと行くぞ」
いきなりのコトで驚いて頭が回らない
抵抗しようにも状況が飲み込めなくて固まってしまい
「危ないから大人しくしてろよ。大丈夫、悪いようにはしない」
彼に抱き抱えられ、顔が見えないように上着を頭からかけられて胸に頭を押し付けられる
さっきよりも彼の匂いを強く感じ、身体が彼を求めてしまう
この人が欲しい
抱いて欲しい
番にして欲しい
先程よりも強く垂れ流されるフェロモンの香りに周りが騒めいているのがわかる
ごめんなさい…ごめんなさい…
オレがちゃんと薬を飲まなかったから…
薬を買うお金をケチってしまったから…
あんな所で、発情期になってしまったから…
本当に、ごめんなさい…
何度も心の中で謝罪の言葉を繰り返した
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