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高い診察料を払い、最後に渡されたエコーの写真を持って病院を出た... さっき映像として見せて貰ったモノクロの写真 ピーナッツ人形のような、まるでオモチャみたいなオレの赤ちゃん… 「ホントに、ココにいるんだ…」 膨らみのない、肉のない腹を撫でる 人気の少ない公園のブランコに座り、溜息を漏らす 子ども達が友だちに向かって元気よく「バイバーイ」と言って帰って行く声が聞こえる 「10万円...そんな金、どこにあるんだろ...」 ポケットに入れていた財布を開く 空になってしまった財布の中身を見て、つい溜息が漏れてしまう 念の為に持ってきた今月の生活費の1万円は消えてしまった あるのは、お釣りで渡された数百円だけ… むしろ、今月の食費すら危ないのに、中絶費用...しかも、早くしないと更に加算されるか中絶すること自体が難しくなってしまう バイトを増やす?前借りさせて貰う? それか、何か別の…1週間で10万円貰える仕事… Ωらしく、身体を売れば… でも、そんなことをしたらお腹の赤ちゃんに悪いんじゃ… 中絶しようとしてるのに、お腹の赤ちゃんのことをつい気にしてしまっていることについ失笑してしまう 「はぁ…あと、同意書のサインをどうしよう…」 誰かに頼むにしても、一体誰に…? 育てて貰った施設の人には頼めない 頼みたくない… せっかく大学にも入れて貰えたのに…これ以上、失望されたくない… 下の子達が、大学にいく足枷になりたくない… なんで、こんなことになっちゃったんだろ… ぐるぐると嫌なコトばかりが頭の中を巡る エコー写真をギュッと握り締め、泣かないように目を閉じる 「コータ?なんで、こんなとこにいるんだ?」 気付けば辺りは陽も沈み暗くなっていた ポツポツと見える家々の明かり 公園内の街灯の光を背にしてるから、今、一番会いたくない彼の顔は影になって見えない 声からして今日も疲れているのか、少し不機嫌なのが伺える 「こんな時間にこんなとこで何してんだ?」 ゆっくりオレの方に歩いてくる彼の姿につい泣きそうなってしまう ホント、なんでコイツはこう助けて欲しい時に現れるんだろ… 全部話してしまえば楽になれるのに… でも、オレがこれ以上迷惑かけるのは… 「べ、べつに...、今月もお金無さすぎてどうしようかなぁ~ってだけ」 誤魔化すように憎まれ口を叩き、今さっきまで見ていたエコー写真や中絶の為の同意書などの書類を乱雑に鞄に隠すように突っ込む オレの行動に眉を顰める顔を見て、慌ててブランコを漕ぎ出す 鞄の中身を見せろって言われても、見せれるわけない こんなの見られたら、バレるじゃん… 「先週バイトの給料日だったのに、お金ないなぁ~って 来週くらいにはまた抑制剤貰っとかなきゃ発情期(ヒート)が来ちゃうかもだし… なんか、楽してお金を稼げたらいいのになぁ~ それか、宝くじが当たるとか!買ったことないし、そんなの買う余裕一切ないけど」 今の気持ちとは裏腹に、ワザと元気よく言う 絶対にバレないように 気付かれないように… お願いだから、気付かないで… 早く、早く…あっちに行って… 「俺の番になるならその心配も要らないって言ってるだろ さっさと俺に噛まれて、俺のになればいい」 ガシャンと音を響かせて無理矢理ブランコを止められる 座っている俺を見下ろすように見詰めてくる彼を見上げ、視線が絡み合う やっぱりかっこいいなぁ… 「絶対、嫌だ!拓也とだけは絶対に番にならない。拓也、好きな人が居るって前に言ってたし」 彼の脇をスルリと抜け出し、べぇーっと舌を出して駆け出す 「発情期(ヒート)の時に相手してくれるからって、番になんかならない!さっさと好きな人に告白して、オレを代替えとして抱くのやめろよな!バーカッ!」 吐き捨てるように言って走り去る 追いかけて来ないのを確認し、徐々に走っていた足を歩みに変える 「気付かれてないよな…」 泣いてるのがバレないように、必死に堪えていたが我慢出来なくなり涙が零れ落ちる 「何が…『俺の番になれ』だ… 好きな人がいるくせに…オレなんて、同情で抱いてるだけのくせに…」 その場にしゃがみ込み、声を押し殺して泣いた 誰にも聞かれないように、見られないように、ひとりで泣いた オレとあいつじゃ、釣り合わない オレなんかが、拓也の番になんてなれない… 好きになんてならなきゃよかった… あの時、出会わなければよかった…
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