580人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
6
近くのホテルに連れ込まれ、ヤられると覚悟していた
発情期事故なんて、この人に迷惑しかならないのに…
どうやっても、償いきれないのに…
罪悪感からボロボロ涙が溢れ出し、止めることが出来ない
でも、それ以上に身体は彼を求めてしまう…
本能が彼を欲してしまう…
彼のモノになってしまいたいと熱くなる
「ごめんなさい。ごめんなさい…」
謝罪の言葉しか口に出来なくて、何度も何度も謝った
謝っているのに、彼の番にして欲しくて堪らない…
初めて会った人なのに
名前すらちゃんと知らない人なのに
彼の番にして欲しくてたまらない…
無意識にトロンと溶けた目で彼を見詰め、彼に縋り付いて求めてしまった
でも、実際は彼がオレに手を出すことはなかった
「大丈夫、手は出さないから」
優しくベッドに横にしてくれ、火照って熱い頬に冷たい手を当ててくれる
「はぁ…流石にキツいから、ペン型のを使うが…痛いのは我慢してくれ」
彼もオレのフェロモンに当てられて辛いのか、顔が赤い
Ωの発情期に巻き込まれて辛いはずなのに、いつの間にかΩ用の抑制剤まで用意してくれていた
服を軽く捲り、お臍の横にプスっと軽い痛みを感じる
「ッ!…はぁ……」
痛みが引くと同時に、ずっと体内で暴れ回っていた熱も一緒に引いていくようだった
それから、オレが落ち着くまで水を飲ましてくれたり、汗を拭いてくれたりと、丁寧に看病だけしてくれた
「薬、錠剤タイプの予備をいくつか置いとくけど、ちゃんと処方されてるやつを飲めよ。どうしても相手が欲しいなら、俺がしてやる」
抑制剤が効いて、ボーっとする頭で彼の言葉を聞いた
意味をちゃんと理解出来てなかったけど、言われるままに何度も頷いた
「良い子だ。何かあれば連絡してこい」
彼がメモ用紙に何かを書いて渡してくる
薬が効いて眠くて仕方ないながらも、渡されたメモを大切に握り締め、落ちるように眠りについた
「忘れず連絡して来いよ。お前の相手は、俺だけだ」
大きな手がオレの頭を優しく撫でてくれた気がした
頭を撫でてもらう事なんて、いつぶりだろう…
その日は、本当にゆっくり寝ることが出来た
目が覚めたら彼はもう居くて…
だけど、置いておいてくれた抑制剤のお陰で家にも帰れた
ホテルのお金は、彼が先に払ってくれていた
オレの手に残されていた一枚のメモ用紙
ギュッと握って眠っていたから、ぐちゃぐちゃになってしまっていたけれど、メモには彼の名前と電話番号が書かれていた
あの時貰ったメモのお陰で、後日ちゃんとお礼を言うことができた
「先日は本当にありがとうございました!ご迷惑をお掛けしたのに、ホテルのお金と抑制剤の薬代…あの、ちょっと今、手持ちがなくて…必ず返します!来月、バイト代が入ったら、必ずお返しします!」
お礼を言う為に自分から呼び出したのに、財布の中身を見て愕然としてしまった
確かに、給料日前なこともあり、いつも通り生活はカツカツだった
でも、ヘソクリはあるから…って思っていたのに、先月、「施設の修繕費を少しだけでもいいから助けて欲しい」と言われて渡したことを忘れていた
真っ青な顔になりながら、直角90度くらいお辞儀をしてどうにか返金は待って欲しいと頼み込む
「クックックっ、そんな改まって来るとは思ってなかった。金はいいよ、気にしなくて…
それよか、身体は大丈夫なのか?」
ポンポンっと優しく頭を撫でられ、恐る恐る顔を上げると顔を覗き込むように見られており、目の前に少し厳ついけどイケメンの顔を突きつけられてつい顔が赤くなってしまう
「だ、大丈夫!です。貰った薬も、大切に持ってるから…無くなる前に、予備も買うつもりはあるし…それに、次まで時間あるからバイト増やせば…」
言い訳じみた言葉に、少し顰めっ面を向けられるも、フッと笑みを浮かべ
「だから、金は気にしなくていい」
彼の優しい態度とは裏腹に、周りの視線が痛い
明らかに場違いだし、オレみたいな並以下のΩが話していい人じゃない
「あ、あの、でも、お金はちゃんと返します!本当に、先日はすみませんでした!」
クルッと踵を返して逃げようとした瞬間、腕を掴まれてしまい、脱出に失敗してしまう
「お前本当にせっかちだな。ちょっとこっち来い」
そのまま腕を引かれ、研究棟の空き部屋に連れて来られる
人があまり来ない場所に連れて来られ、何をされるのかとビクビクしてしまう
「本当に大丈夫なのか?抑制剤って言っても、一般的に売られているヤツだったから、合わなかったとかないか?」
熱がないかと額に手を当てられ、恥ずかしくて余計に赤くなってしまう
この前も思ったけど、αだから馴れてるのかなんかめちゃくちゃ距離が近い気がする…
「発情期になったら俺に言えよ。ちゃんと気持ち良くしてやるから」
耳元で囁かれる言葉に腰が砕けそうになり、恥ずかしすぎて俯いてしまう
「そ…そういうのは、恋人にしてあげてくださいっ!」
揶揄うように喉で笑いながら、オレの首筋に軽く触れるだけのキスをしてくる
「なら、お前が俺の恋人になればいいだろ?」
信じられない事を笑いながら言う彼に、揶揄われているんだと思い頬を膨らませて睨み付ける
ホント、辞めてほしい
色々勘違いしそうになるから…
自分はこの人の特別になれるかもしれないって…
そんな、夢みたいなこと…考えても仕方ないのに…
あれから、本当に発情期が来る度に相手もしてくれるようになった...
隠してても、なぜか発情期が近付くと彼が先に気付いて家に連れて行かれる
頼っちゃダメだとわかっているけど、抑制剤を買う余裕もなかったし、彼が相手をしてくれるのが嬉しかったから…
甘えちゃダメだって、わかっていたのに…
Ω専用の風俗とかで働けば…って思ったことはあるけど、その度に彼の顔が浮かんでしまう
拓也は、こんなオレでも大切にしてくれる
これは恋とかじゃない。ただの同情からだってわかってるのに、拓也の優しさに縋るしかなかった…
避妊もしっかりしてくれていたし、一緒にいると安心する
他のΩからは嫉妬の視線が痛かったけど、いつも優しく大切にしてくれるから、勘違いしそうになる…
「俺の番になれば、そんなバイトばっかりせずに済むぞ」っていつも冗談を言ってくれるのが嬉しかった
彼が大学を卒業しても、この関係は続けてくれた
彼の優しさに漬け込んでいるようで、心苦しかったけど、それ以上に嬉しくて…
この人と番になれる人は、いい所のΩなんだろうなぁ...
オレとは、全然違う、綺麗だったり可愛いΩ…
オレが彼の恋人になんて…番になんて、なれるわけないのに…
自分とは関係ないし、そんな望みを持つのも烏滸がましい…
最初のコメントを投稿しよう!