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「明日からシフトガッツリ入れて貰えませんか? どうしても、お金が急いで必要で…」 バイト先である居酒屋の店長に無理を承知で頼み込んでみる 1週間で10万... 10週、過ぎたらもっとかかるんだよな... 「こっちは常に人手不足だから助かるけど、お前大丈夫なのか?」 心配してくれる店長に、顔色が悪いのを笑って誤魔化す 「あと、もし大丈夫なら給料日前だけど、先払いってして貰えませんか?この1週間分だけでも…」 店長は怪訝そうな顔をするも、「無理するなよ?」って何も聞かずに肩を叩いてくれた 今はとにかく、お金が欲しい... どんなコトをしてでも、お金が欲しい… いつもは週4日しか入れて貰えないのを毎日入った 居酒屋のバイトが終わったら深夜のコンビニバイトと短期の深夜バイトを掛け持ちで… 睡眠時間も食事も削って… 無理矢理にでも、お金をすぐ貰えそうなバイトはやった とにかく、1週間がむしゃらに働きまくった 吐き気と気持ち悪さ、ダルさで動けなくなりそうだったけど、早くお金貯めないと… 気持ちばかりが焦ってしまって… でも、身体は追い付いてくれなくて… まともに食事をしていなかったからフラフラになってしまった 食べても吐いてしまう ずっと、ずっと気持ち悪くて 酸っぱいモノが食べたい さっぱりしたモノが食べたい 果物なんて、高くて買えないから なんで…オレ、なんの為に働いてるんだろ こんなフラフラになりながら、なんで… 何度か、仕事中にも動けなくなって…店のみんなに迷惑を掛けてしまった なのに、予定の1週間が経っても稼げたのは8万円 足りない.…、全然足りない… やっぱり、普通のバイトだけじゃダメだった… 居酒屋の店長に相談しようかと思ったけど、そうすると理由を伝えなくちゃいけない… せっかく、Ωなんかのオレを働かせてくれる場所なのに… これ以上迷惑なんかかけれない… やっぱりΩなんか雇うんじゃなかったって言われるのが怖くて、相談なんて出来なかった… 誰にも相談なんて出来なくて、焦りばかりが募っていく お金が足りないと、中絶できない… どうしよう… 拓也にお金を借りる?でも、それだと理由を言わなきゃだし… 同意書にも、サイン貰わなきゃ… どうしよう…どうしよう… 孤り、ボロアパートの部屋で横になっていると不安になる 頑張って稼いだお金は何度数えても足りなかった 何処かにちょっとでも残ってないかと引き出しの中も、服のポケットも、カバンも、全部ひっくり返して探したけど、見つけたのはレシートのゴミとポケットに入っていた50円だけ… 絶望感だけが募っていって、座り込んだら動けなくなった 座ってても気持ち悪くて、横になったら少しだけマシになった お腹に手を当て、居るのかまだわからない子に向かって 「なんで…なんで、オレのとこになんで来ちゃったんだよ。幸せになんて、できないんだぞ…」 涙を手の甲で拭い、意を決して拓也の部屋に向かおうと決心する お金は、必ず返す 同意書は、サインだけ貰って… それだけして貰ったら、もう二度と会わないようにする この関係ももうやめよう 拓也を好きでいるのは、もうやめる 拓也の好きな人の代わりなんて、もうヤダ… こんな気持ち、ずっと隠すなんて出来ないから もう、迷惑だけはかけたくない… 拓也に前に貰ったもこもこのダウン 綿の潰れた上着しか持ってなかったから、それじゃ寒いだろ?って去年のクリスマスに拓也が買ってくれた クリスマスの日はバイト三昧だったから会うことなんて出来なくて、プレゼントなんて貰えないと思っていたからすっごく嬉しかった 「オレにこんなプレゼント用意しなくてもいいのに… 拓也の好きな人は何貰ったんだろ…?拓也に告白されて断る人なんていないのに、な…さっさと想い人に告白しちゃえばいいのに…」 彼の匂いなんてしないってわかっているのに、このダウンを着るとつい匂いを嗅いでしまう 本当に、彼に想って貰える人が羨ましい 何度も訪れたことのある彼のマンション 発情期(ヒート)の時は、何故かいつも部屋に泊まらせてくれた 拓也の匂いに包まれてるみたいで安心出来て、掛けて貰った布団が拓也の匂いがして… 番になったら、巣とか作らせて貰えるのかな?って細やかな夢を見たっけ… これが最後だって思うと、今までの思い出がポロポロと思い出されてくる ホント、未練がましい… 部屋の前に着き、震える指でチャイムを鳴らそうとした瞬間、後ろから急に声を掛けられた 「どなた様ですか?」 振り返ると、そこにはとても綺麗な女性が立っていた 歳上の綺麗な人 首元のチョーカーと軽く匂う甘い香り 着てる物も何処かのブランドとかのものかな?上品ですごくその女性に似合っていた この人が、彼の好きな人だと瞬間的に悟った 「えっと…、オレ、大学の後輩だった者です。先輩にはお世話になってたから……ちょっと、近々引っ越すから最後の挨拶をしたかっただけ、で…」 話していて涙が出そうになる つい鼻声になってしまい、上手く笑えない 言い訳も思い付かない 「あの、すみませんでした!それだけなんで!オレ、先輩とは何でもないから!気にしないでください!じゃ、帰ります!」 頭を深く下げてお辞儀をする 床に涙の滴が落ちてしまい、染みが出来てしまう 泣き止みたいのに、次から次へと溢れ落ちてしまい、なかなか顔を上げることが出来ない 「えっと…貴方が幸太くん?」 彼女が何か言おうとしたした瞬間、何も聞きたくなくて、聞かれたくなくて、勢いよく顔を上げてから走って逃げた 彼女が何か言って引き止めようとしてるけど、何も聞こえない、聞きたくない… 自分が特別だって思っていたのが恥ずかしい… やっぱり、オレじゃ…彼には釣り合わない… だから、この気持ちには蓋をしよう 大丈夫、きっとなんとかなる…
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