ささみジャーキーと大邸宅

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 ――と。  そう気づいた時は遅かった。  案内された、風呂場の脱衣所みたいなトコロで、オレはすでにまるっと服を脱いでしまっていた。  ズボンは、すでに「終了」してたさ。  ケツはまさに「漏らした」のかっていう勢いで泥だらけ。  膝から下も全滅。腿の内側もだ。  シャツの裾も泥んこだった。    唯一、下着だけは無事だったのは、「不幸中の幸い」なのかなんなのか。  すると、脱衣所の引き戸がノックされる。   「あの、洗う服、受け取っちゃいますけど」  言いながら少年が、カラリと戸を引き開けた。  その声に、「パンイチ」のまま、オレは振り返る。  少年が一瞬、動きを止めた。  だがすぐに、淡々と脱衣カゴに入ったオレの汚れた服を手にする。  そして、チラとオレを一瞥し、 「……着替え、どうぞ」とだけ言って、引き戸を閉めた。  え、なに、今の妙な間――    なんか……見られてた? オレ。  ってか、そんなにオッサンな身体だったか?  さっき、公園でウォーキングの中年男女を眺めやりながら、「体力づくり」でも……なんてこと、考えたりはしたけれど。  いうて、なんだかんだ、まだ二十代。  そこまで「みっともない身体」ではないハズ……と、勝手に考えてたけどさ。自分では。  オレは視線を下げて、自分の腹を眺めやる。  全盛期のくっきり「シックスパック」の頃ほどではないが、腹筋のラインはそれなりにキレイに出ていた。  そう、痩せても枯れても「元ボート部」だ。  聞かれてそれを答えると、人によっちゃ「スノッブ」だの「ポッシュ」だのとからかってくるけどさ。別にそんなんじゃない。  そもそも、いたのは「高校」のボート部だ。  大学では続けなかった。  当たり前だ。あんなモノ、入ったら最後。  体育寮があれば御の字。場合によっちゃ艇庫で寝泊まり、朝から地獄の練習だ。勉強なんてやる体力、残りようもない。  そりゃまあ、六大学強豪校じゃ、ボート部員で司法試験受かるヤツとかも居るらしいけどな? オバケかっつうの。  ――でも。  低く低く、滑るようにみなもを滑る快感は忘れがたくて。  キラキラときらめく、あの光の帯。  スッと水に入るオールが形作る同心円の波紋が懐かしくて――  結局、オレはインカレの漕艇サークルに入会した。  それで、そこの先輩と付き合った。  ダイナミクス性としての意味合いで――だ。  claimとか何とかの、そんなシリアスな関係とは言えなかったけどさ。  一応、collarも貰った。  初めてのcollarだった。    初めての、オレのDomだった――  初めてのcommand。  従属の縛めに酔いしれて、溺れた。  ヤメロ。  思い出すな、もう。  ひとつ大きくかぶりを振って、オレは加速度的に回り出した思考を払いのける。  そして今一度、少年のさっきの様子を思い返してみた。  あの時に向けられた視線、その先の延長線上をたどって――  オレは少し俯く。 「マジ……か」  勃起してた。  それもフルに近いレベルの半勃ち。  え? さっきからしてたのか? してたのかよ!?  公園で地べたにKneel しちまった時から?  マジ、ヤバいにも程があるだろ、オレ。  あんな中学生とかの前でチンコ勃てるとか。  ただの変態じゃん。 「ヤバい……死ぬ、ってか死んだ……」  ハズすぎるだろうが、もう――
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