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少年と犬は、公園の入口とは逆の、木々がうっそうと生い茂る奥の方へと歩いていった。
疑問に思いながらも、その後をついていく。
木立の中に長い塀があり、小さな門扉があった。
少年が、棒状の鍵を差し込んで錠を開け、鉄扉を押す。
オレたちは、塀の「向こう側」へと足を踏み入れた。
木々がさらにスゴいことになっている。
なんなら、公園側より林っぽい。
ほら、たまにあるだろ。
私鉄沿線、各停の駅から徒歩十五分あたりの場所にさ。
公共施設? 公園? なんて思うほど広々した敷地で、立派な植え込みのある年代物の家。 ちょっとした洋館風だったり、豪農の日本家屋といった風情だったり。
多分ここも、そんな場所のひとつだ。
ってか、もともとあの公園も、この屋敷の一部だったのかもな――
そんな感じで、公園とシームレスに繋がった庭を抜けていくと、突然、目の前に建物が現れた。
一部しか見えない。けど、相当な大邸宅だと分かる。
完全に「和風」ではないけど、ただの「洋風」でもない。
飛び石、敷石。
犬がピタリと足を止めた。石造りの古い手水鉢みたいなものの前だった。
かなり大きくて、側面が少しだけ苔むしている。筧から、水がサラサラとこぼれ落ちて涼しげだ。
水をひしゃくで組んで、少年は犬の足の裏をザッと流し、手近の手ぬぐいで優しく拭ってやっている。
たしかに。
このデカそうな家なら、このデカい犬を室内飼いしても、全然大丈夫だろうな……。
なんてことをボヤっと考えていると、「どうぞ」と声が掛かる。
少年が、おそらくは正式の玄関ではない、通用口のひとつだろうと思しきドアを開いて、オレに視線を向けていた。
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