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廊下には誰も居なかった。きっとカルロス=モンタギューが、僕と二人きりになるように、そして会話の盗み聴きを警戒して、誰も近寄らせなかったんだろうとラルフは思った。
ラルフはまだ身体中が痛むが、なんとか教室まで歩いていった。
教室には、ラルフのように傷やあざだらけのナイトハイトと、それからエミリアがいた。
ラルフを見た途端、ナイトハイトは椅子から立ち上がった。
「ラルフ!」
ナイトハイトは叫んだ。
「君、怪我は大丈夫かい?」
「気絶するほどには大丈夫さ。ナイツ、君こそ平気かい?」
ラルフは言った。
「軽口が叩けるなら安心したよ。僕の方も、まあ、なんとか大丈夫だ」
ナイトハイトは椅子に座った。ラルフも近くの椅子に腰掛けた。
そしてナイトハイトはラルフが気絶した後のことを徐に語りだした…。
「君は記憶にないかもしれないが、実はね、途中からこの麗しの美女も僕らの喧嘩に乱入していたんだ。
エミリアは『ガーラン、やめなさい!やめないと、あなたを心の底から軽蔑するわよ!』って彼に突っかかったんだ」
ラルフは驚いて彼女を見た。また助けてくれたのか?
エミリアは無表情のような、何かを睨みつけているような、形容しがたい表情をしていた。
「そしてガーランはエミリアに動揺したのか、しばらく君を蹴るのをやめたんだ。でも今度はグラナスが君に近づいた」
ナイトハイトは身を乗り出して言った。
「グラナスは恐らく君の顔を蹴ろうとしていた。奴が君を蹴っていたら、君は本当に命が危なかったかもしれない。それは間一髪だったよ。どこからか騒ぎを聞きつけてやってきた先生が、状況を見てとるなり、いきなり大声で叫んだんだ。
『君たち、やめなさい!ラルフを傷つけないでくれ!』って…。
君には申し訳ないけど、僕は驚いたね。いや、僕だけじゃなく、皆驚いていたんじゃないかな。
もう、はっきり言うけどね…、君は平民だ。そして先生も平民だ。平民は貴族に口出しすることはできないし、ましてや平民を傷つける貴族を平民が止めるなんてあり得ない。
だからガーランは言ったよ。
『ケビン先生、お前は教師だが、平民だよな?そうだよな?』
先生は震えていた。でもこう言った。
『言うことを聞いておくれ。これは君たちのお父さんより位の高い貴族のお方から仰せつかったことなんだ。
「ラルフ様に危険があったら知らせるように。また、危険がないように君が守れ。でないと君の命はない」と。だからどうかやめておくれ。私のためにも、そして君たちのためにも』
それを聞いてガーランとグラナスはあっけに取られていた。そしてよく状況が掴めないままその場に立ち尽くしていた。
君が保健室に運ばれていってる間もずっと。
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先生とエミリアが君を保健室まで運んだ後、僕も保健室に向かったんだ。
でも保健室には医者と君だけを残して、先生とエミリアは廊下に出ていた。
先生は言った。
『早馬を出した。まもなく貴族の方がお越しになるだろう。君たちには悪いがここから立ち去らなくちゃならない。さあ、戻ろう。君たちも、私も、彼を見てはいけないからね。』
終わりだよ。
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…ねえ、ラルフ。君は一体何者なんだ?」
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