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プルプル。
ここ数日無言を貫いていた携帯からの音に春は慌てて画面を確認した。
「はい!」
「春?今いいか?」
「うん。佐志さん終わったの?」
「あぁ。竜之さん組長の座についたよ。」
「そっか.......良かった」
「今日から皆、屋敷に戻るからさ。ただ、春を戻していいかどうか聞いてないから明日また連絡するよ。」
「うん。ありがとう佐志さん。」
「じゃあな。」
「お疲れ様」
春はそのまま通話が切れた画面を見る。
良かった。
無事に終わったんだ。
春は肩に力が入っていたのかソファに体全体を沈めて息を吐く。
御堂の皆に何もなくて良かった。
もうすぐ戻れる。
また皆と一緒に居られるんだ。
胸の中がフワっと温かくなり気持ちも軽くなる。暗く重い不安な空気はもう無くなっていた。
明日まで我慢だよな。
でも、せめて竜之さんの顔を見ておめでとうって言いたい。
「春?どうしたの?」
仕事終わりに戻ってきた岬を玄関で待ち伏せし春は一生のお願いばりに彼に頭を下げた。
「え?竜之さんに?」
「うん。一言おめでとうって言ったらすぐに帰るから。」
「う〜ん。待って、念のため兄貴に確認するから」
岬が小野田と話をしている間に春は台所に向かいボールを取り出し、炊飯釜から米を移す。
海苔にごま油を塗りグリルでさっと炙る。
軽く2、3回軽く握った米を海苔に巻く。
竜之が一番好きなおにぎり。
これが今の春が出来る精一杯。
それをバックに入れて小野田直伝のお茶も水筒に入れた。
少しでも食べてくれたらいい。
ただそれだけの思いで大好きな人のために準備を急いだ。
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