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夜中12時過ぎの暗い道のりをバイクを走らせる岬の体に密着し御堂の屋敷を目指す。
小野田から、会いに来る許可が出たが久しぶりに屋敷に戻る事もあり屋敷内部や周辺の安全性が確認出来ていないため、春はまだ中には入れられないという事だった。
そのため竜之が到着する頃に春にも来るように言われた。
屋敷門と玄関の間ならば一応御堂の敷地内だし、数分ならば組員もいて安全だろうと小野田も判断してくれたようだった。
「春、俺の側を離れないでね」
屋敷近くにバイクを停めて岬は春を伴いゆっくり屋敷へ歩いて近づく。
すると、屋敷前に数台の黒塗りの車が停車しているのが見えた。
あ、佐志さんだ。
1番前の車から降りてきた人物が佐志である事に気づき春はホッと安心する。
良かった。佐志さん元気そう。
通話の時は少し疲れたような声だった気がしていたから佐志の無事な姿に胸を撫でおろす。
その後ろの車のドアが開かれ一際オーラを放つ人物が降りてきた。
薄い暗闇でもすぐに分かる。
鋭い鷹の目をした男。
春の1番大切な人。
竜之さん。
駆け出したい衝動を抑えて岬の横を歩き続ける春の横を一台のバイクが近づいて来ていた。
「春、危ない」
岬が春の体を彼の方へ引き寄せギリギリのところでバイクをかわす。体が斜めに引き寄せられたその瞬間、春は視線をバイクの方へ向けた。
あの、男。
どこかで。。。
春の脳裏に浮かんだのは
粘着質な顔とアンバランスな小太りな体。
そうだ、アイツはヒキガエルだ。
以前、春を拉致したその男の名前など知らないが姿形がまるでヒキガエルのようだったため脳裏に強く残っていた。
ヒキガエルが乗ったバイクは竜之の方角目掛けて走って行く。
胸がざわついて落ち着かない。
春は岬の制止を振り払い走り出す。
見間違いならばそれでいい。
佐志に逃げ足は早いと言われていた通り、次第にスピードを緩めていたバイクとの距離をあっという間に詰めた。車の周辺では大勢が入り乱れていて近付いていく相手に誰も気づいていない。
バイクを投げ捨てた男が竜之の方へ走って行く。相手の持っている物が暗闇の中で一瞬キラリと光った。
男が竜之の側に行く直前、春は間に入り両手を広げた。
「竜之さん!!」
春は精一杯の声を張り上げ竜之の背中に抱きついた。
ドス。
自分の後ろで鈍く重い音が聞こえた気がするが、今は竜之が無事な姿を見れた事の喜びしかなかった。
ずっと心配だった。
人から恨まれる家業だと知っていたから。
どんな風に周りに思われていても春は竜之が大切だから。だから無事でいて欲しかった。
今、春は小さな体で大切な人の背中を抱きしめる。
一ミリも彼に傷が付かないように。
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