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「傷がかなり深くまで達しています。とにかく最善を尽くすので」
そう医師が告げたまますでに4時間近く経過していた。
病院の廊下には神を含めた御堂組員がひしめき合っている。
その中でも竜之は目を閉じたまま微動だにしない。その姿が逆に恐ろしく周りの者は誰も口を開けないでいた。
病院は御堂と繋がりのある場所のため、殺傷沙汰があっても多少なり誤魔化しは効く。
ただ、それは春の命が助かればの話だ。
佐志は先程の光景を思い出し拳を強く握りしめる。春が盾にならなければ竜之は死んでいたかもしれない。それくらい相手の勢いは凄まじいものだった。
赤く染まる春の体を必死で抱き止める竜之の姿が脳裏に焼き付いて離れない。ひとまわり大きな竜之の背中を守るように盾になっていた春の背中には深いナイフが突き刺さり周辺には大量の血が流れ落ちていた。
佐志が走って春の側に行った時にはすでに意識はなく、春の手を握りしめ必死に呼びかける竜之の声だけが響いていた。
大和大吾は、小野田達に連れて行かれた。おそらく想像を絶する拷問を身をもって受けるだろうが体中の皮を剥がされても仕方ないレベルだ。たぶん奴は何にも分っちゃいないだろうが。
神の話では大和組と親の管轄していた組は解体して2人ともに破門になるようだ。子の不始末は結局親が取らなければならないのだろう。
大吾の親父は首を吊る勢いだったらしいが、
そんなに楽に死なす訳もないだろう。小野田が始末をつけるらしいのでどのみち今までの生活は望めまい。
佐志は主である竜之に視線を向ける。
まだ春の血がベットリと付いたままのスーツ姿で座る彼は、怒りなのか悲しみなのか目を閉じているため感情を読み取る事が出来ない。
佐志は手術室の向こうで命を繋ごうとしている友人に念を送る。
絶対に生きて帰ってこい。と
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