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黒塗りの車が滑らかに屋敷前に停まる。
そこにはすでに大勢の男達が集まっているのが目に入った。
何?
何事?
また何かあったのだろうか?
車の窓から見ていた春の前には怖い顔した男達が固まって団子状態になっていた。
佐志がドアを開けるや否や春の体は車から抱き上げられ強く抱きつかれた。
「春!」
「春、よく頑張ったな!」
「お前、心配しただろうがっ!」
病室に来れなかった若衆達の熱い抱擁に若干酸欠になりながら春も皆に精一杯抱きついた。
ベリっ。
まるで引っ付いていたシールを剥がすかの様に若衆達から離されて、春は再び違う腕に抱き上げられた。
「春、良かったな。無事で。」
「神さん、心配かけてごめんなさい」
神の温もりに触れて思わず泣きそうになった春は「もう元気だよ!大丈夫」と笑顔を見せた。
「痩せたな。また沢山食べさせてやるから。」
「うん。お茶しようね、神さん」
そうまるで祖父と孫の抱擁を見ているかのような光景に組員達は2人を微笑ましく見つめる。
「いつまで門で騒いでんだ。」
玄関先から竜之がゆっくりと歩いてくる。
鷹の目をした闇の帝王のような男。
でも、春にとっては優しい大好きな人。
竜之の側に走りだそうとした春を「まだ無理するな」と佐志が止める。
でも、すぐにでも竜之の側に行きたい。
彼の体温を感じたい。
抱きしめてもらいたい。
そんな春の気持ちが分かるのか、竜之が足早に側に来ると春を抱き上げ強く抱きしめてくれた。
竜之さん。
大好きな人の香りを胸一杯に吸い込む。
それだけで自然と涙が溢れてきた。
春は竜之に抱かれたまま玄関に連れて行かれそっと降ろされた。玄関をくぐると懐かしい屋敷の香りがして、やっぱり涙が溢れてきた。
屋敷内にも組員がいて皆口々に「おかえり」と言ってくれた。そんな中、陣内は何故か泣いていて「俺より先に死ぬなよ」などと言っている。
病室に来た時はバカ話ばかりしていたのに案外強がっていたのかな。なんて思い笑った。
ここが俺の生きる場所だ。
春は改めてそう感じた。
意識を失いながらも願っていたのは
御堂の屋敷に戻りたいという事。
そして竜之の側にいたいという事だけだった。
自分の生きる場所
生きる意味はここにある。
「春」
竜之が春の方を見る。
「おかえり」
普段滅多に笑わない彼の笑顔に春は破顔する。
「ただいま!」
両手一杯を広げて彼に向かって飛び込んで行く。難なく春の体を抱き上げた竜之が耳元で小さく囁いた。
「春、愛してる」
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