第一章 また来てと瞬く間に揺らして

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その日、私は体調がすぐれなかったけど、学校を休むほどでもなかったし、いつものように登校していた。 「篠宮(しのみや)、これ、三宅に渡しておいてくれないか」 廊下を歩いていると、担任の教師とばったり会ってしまい、プリントを手渡された。 私が躊躇いながらも引き受けると、先生はほっと安堵の吐息を零す。 「篠宮、頼むな」 急いでいるのか、先生は足早に職員室に戻っていった。 「えっ……」 残された私はプリントを持ったまま、呆然と立ち尽くしていた。 三宅くんと話したことはいまだにないし、きっとこれからも話す機会なんてないと思っていた。 確かに……いつか彼と話してみたいと思っていたけど、挨拶する勇気すらないのに。 それなのにどうしてだろう。 私はこっそりとプリントを確認して、小さく溜息をつく。 廊下を歩いていると、三宅くんがこちらに向かってくるのが見えた。 別のクラスの女子たちが、彼が通り過ぎた後にこっそり振り返っている。 三宅くんは通りすがりの彼女たちが目をひくくらい、かっこいい男の子だ。 神様、どうか、私に勇気をください! 私はプリントを持って、三宅くんの方にゆっくりと近づく。 距離が縮まれば縮まるほど、鼓動が慌ただしくなっていく。 私は戸惑いながらも、彼の傍に立つ。 端正な顔がゆっくりと私の方に向き、不思議そうに瞬きを落とした。 こんなにも近くで、三宅くんのことを見たのは初めてで、私は上手に視線を合わせることができなかった。 「これ……。先生が三宅くんに渡して、って……」 それだけを言うのが精一杯だった。 「それだけだから」 私はうつむいたまま、口ごもり、くるりと踵を返す。 だけど、その時、私の身体がふらりと傾げた。 体調がすぐれない状態で学校に来たことで、やはり、無理がたたったのだろう。急激に疲労が襲ってきた。 「おい、大丈夫か」 三宅くんが咄嗟に肩を支えてくれる。 「大丈夫……」 歩き出そうとした途端、私は足元がぐらぐらと揺れる感覚に襲われる。 「ほら、つかまれよ」 三宅くんは私の肩に手を回し、抱きかかえるように支えて歩き出す。 わわわっ! 近いよ!! あまりにも近すぎる距離に、私は思わず狼狽した。
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