第九章 その不屈の果てに、望む人が居るのなら

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「雫、ねねちゃん!」 しばらく観覧車の近くで待っていると、よく通る男の子の声が遠くから聞こえてきた。 私たちが視線を向けると手を振りながら、整った顔立ちの男の子がこちらに走ってくる。 「春陽くん!」 「はるくん、こっちこっち!」 私とねねちゃんは思わず、手を振り返して声を弾ませた。 距離が縮まれば縮まるほど、鼓動が慌ただしくなっていく。 「遅くなってごめんな」 駆け寄ってきた春陽くんが私たちの傍に立つ。 端正な顔がゆっくりと私たちの方に向き、嬉しそうに笑った。 「それにしても観覧車、でかー」 「ほんとだね」 「この地域、最大級の大観覧車だってー。すごいねー」 合流した私たちはチケットを買い、列に並ぶ。 やがて、私たちの順番が来て、スタッフに案内されてゴンドラに乗り込んだ。 観覧車はゆったりと回転し、緩慢にゴンドラを持ち上げていく。 ゴンドラ内には、静かで穏やかな音楽が流れている。 公園の緑が見え、駐車場が見え、さらに高度が上がり、頂上にさしかかると――。 「わあ。こんな遠くの場所まで見えるんだね……!」 新しいものに出会う喜びは、大好きな人たちと一緒ならば、ひとしおだ。 絶景を一望できる空の旅は、存分に私の心を弾ませる。 「すげえー、景色だな」 「ばり感動だねー」 少し遅れて、春陽くんとねねちゃんは同時に感嘆の声を零した。 公園の向こうに広がる、優しく波打つ光の海がキラキラと夏の陽射しのように眩しく輝いている。 その景色はどこまでも優しく、温かな色彩として私たちの心を震わせる。 「ねえ、はるくん」 「ん?」 その奇跡のような光景を眺めながら、ねねちゃんは静かに春陽くんに声をかけた。 「これから、わたしとしずちゃんと三人でデートしよう」 思いがけない告白に、春陽くんだけではなく、私も驚きに染まる。 「はるくんとしずちゃんのこと、もっともっと知りたいから。今日の時間、出来る限りほしいー」 ねねちゃんの大胆不敵な提案に、否応なしに私の胸が高鳴っていく。 春陽くんも、ねねちゃんの様子から何かを感じ取ったのだろう。 「分かった。今日は思いっきり、楽しもうな、雫、ねねちゃん」 「うん、楽しもう」 「えへへ。はるくん、しずちゃん、ありがとう」 私たちの了承に、ねねちゃんは満足げに微笑んだ。
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