第一章 また来てと瞬く間に揺らして

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「ねえねえ」と口にしてはチラチラと見ている私と、何かねだりたいことがあると知って笑っている三宅くん。 その場に私たちが揃うと大抵、そんな場面に行き当たる。 馴染みの者は「またか」と笑うし、 馴染みのない者は「なに、あれ?」と周囲の知人へ問うことだろう。 三宅くんは相変わらず、クラスの人気者で男女問わず、好意を抱いている人がたくさんいると思う。 妬まれることもあったけれど、それは三宅くんと一緒にいることができる裏返し。 そう考えて、今日も無意識に三宅くんばかりを見てしまう。 学校の帰り、分かれ道で立ち止まって、日が暮れるまでお喋りしたり。 売店で買った新商品のパンを半分こにして食べたり。 ただ、がむしゃらに生きていく毎日が新鮮で楽しかった。 これから何をしよう。 これから何処に行こう。 そうやって二人で話せる度に、積もる想いには名前はまだ無くて。 ただ、大切な大切な『特別』で。 特別であることが幸せ。 こんな当たり前の日常こそが『特別な幸せ』なんだと気づけて良かった。 三宅くんと一緒に過ごす時間は不思議と心地よく、自分が自然体でいられるような気がした。 * 「なあ、(しずく)。もう一人の俺に会ってみないか?」 思わぬ提案を持ちかけられたのは、お互いに苗字から下の名前で呼び合う仲になったばかりの頃だった。 その頃は私の中に芽生えた三宅くんの――春陽くんへの特別な想いがどんなものなのか漠然と分かっていた。 「秋斗くんに?」 春陽くんの意外な発意に、私は項垂れるとほんのりと頬を赤くした。 秋斗くんにはヴァイオリンのレッスンが忙しいこともあり、今まで会ったことはない。 それに……私は秋斗くんに会うことを少し躊躇っている。 その理由は単純。私は春陽くんが『共依存病』だと認めたくなかったからだ。 「雫に聞いてほしい曲があるんだよ」 「春陽くんじゃダメなの?」 「俺じゃ上手く、ヴァイオリンを弾けないんだよな」 そう言えば、ヴァイオリンのレッスンを受けているのは秋斗くんだけだと言っていた。 もしかしたら、頭では理解していても、春陽くんの身体がヴァイオリンを弾くことに慣れていないからかもしれない。 「雫、頼む。雫が欲しがっていた本、プレゼントするからさ」 「……う、うん」 結局、私は春陽くんの頼みを断れず、後日、秋斗くんに会いに行くことになった。
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