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近くの公園に着くまで俺達は妙な距離のまま歩いた。一言も話さないままブランコに座り、しばらく無言が続いた。自分から誘ったくせにやっぱり何を話せば良いのかわからない。
しばらくして「吉沢くん、」と片桐さんが話しかけてくれた。「なに?」「約束、守ってくれてありがとうね。」不甲斐ない俺にお礼を言ってくれる片桐さんにとても申し訳なくなった。「俺に話したこと、後悔してない?俺は、片桐さんに何もしてあげられてないよ。」ずっと、謝りたかった。俺はきっと彼女にとって、期待外れだっただろう。だけど彼女は首を横に振った。「だから、ありがとうなんだよ。何かしようとか、無理に思わないで。こっちが申し訳なくなっちゃうから。ごめんね、吉沢くん。」「ごめんは、俺の方だから。」そう言うと彼女は何故か笑っている。不思議そうにしていると「そういうとこだよ、好きになったの。」と、また突然の告白に心臓が浮いた。「優しいよね、吉沢くんは。皆が嫌がることを、さりげなくやったりさ、人が傷つかないように自分のせいにしたりさ。見てたの、ずっと。気持ち悪いでしょ?」恥ずかしそうにうつむく姿になんだかこちらも照れる。「いや、驚いたけど…なんか、ありがと、ね。それより、片桐さんが俺のこと好きって言うの、あんまり信じれてなかったから、そうストレートに言われると、なんか、嬉しいかも。」話せば話す程、恥ずかしくなってくる。いつも真っ直ぐな言葉を伝えてくれる片桐さんに反して、辿々しくなる自分が情けなくて片桐さんの方を見れない。「…信じてなかったんだ。」「うん、ごめん。」「また謝ってる。」笑い声が聞こえて俺もつられて笑った。この人こそ、本当に優しい人だ、と思った。そしてまた静かになってしまった。でも、まだ、帰りたくない。片桐さんは、どうだろう。また沈黙を破ってくれるのは君で。
「吉沢くん、誕生日祝ってくれて本当に嬉しかった、ありがとう。」
「うん。」
「それから、ずっと秘密守ってくれてありがとう。お陰でいつも通りの学校生活を送れてる。」
「うん。」
「あと、話しかけてくれてありがとう。自分から言ったのに、いざとなると皆の前じゃ恥ずかしくて話しかけられなかったの。」
「うん。」
「それから…」
「まってよ、俺も、下手くそだけど、言いたい。片桐さんと、もっと話したい。今、こうして話せるようになって、嬉しい。あのとき、手紙を入れてくれて、大事なことを伝えてくれてありがとう。こんなお祝いしかできないのにありがとうって言ってくれて、ありがとう。話し下手な俺の代わりに話をしてくれて、ありがとう。俺、もっと片桐さんと…」
ふと片桐さんの方を見ると、とても辛そうな顔をしていた。そして「もう、いいから。」と初めて聞いた彼女の冷たい口調にハッとした。
俺は、どこまでも馬鹿だった。
彼女の涙を見て気づいた。
俺が今言った言葉は、君には酷だったんだ。
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