You will be quiet #5

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「有野くんには、感謝してるよ。でもーーもうちょっとうまくやらないと、サギには通用しないみたいなんだ。なんせああいう子だから。こういうのってなんだっけ。、っていうの?」  僕は、あの鉄ちゃんの「放っとけよ」という、無責任極まりない言葉をーーこのときふいに思い出していた。  もちろん僕には、そうするつもりなど毛頭ない。  毛頭ないけどーーそのかわりにどうしたらいいかなど、皆目見当がつかないのだった。  でもとにかく、北島のいうとおりなのだ。僕にも鷺沢がいずれあの男と会うとしか思えないし、何かわけのわからないことにーー考えたくもないけどーー巻き込まれる可能性があるように、思えてならない。  とにかく、すべてが危険なのだ。  このとき、もう一度頭の中に、「鉄ちゃん」という言葉が点灯した。  彼ならーーあの鷺沢と、奇妙な紐帯(ちゅうたい)で結ばれているらしい鉄ちゃんなら、なんとかできるのかもしれない。  でも、全力で僕は、その選択肢だけは避けたいと思った。どうあっても、鉄ちゃんに頼ることだけはしたくない。  この自分が、なんとかしなければならないのだ。  僕はこのときふと思って、北島にこう聞いてみた。 「あの鷺沢の、右手首のヘンな赤い痕ってーーなんだか知ってるかな」  北島は首をかしげると、 「私もちょっと気になってたんだけど、聞いたら最近急にできたんだって。なんかの病気とかじゃないみたいでーーたぶん虫刺されかなにかじゃないか、って」  僕は、このときあの今野聖先輩の名前を、口に出そうか迷っていた。  はたして同じ箇所に、同じような時期にーー? 「とにかく、北島の言うことはわかったよ。自分にできることはなんでもやる」 「うん。でもさ、どうやって?」  女っていうのはーーすぐにこうして、一足飛びに結果だけを求めたがる。で、それができない男をここぞとばかりに見下すのだ。  北島もそのとおり、何も答えずにただうつむく僕を、軽くため息をついて眺めていた。  夕暮れどきに吹く風は冷たくって、さっきまでブランコで遊んでいた子供とその母親は、とっくの昔にその姿を消していた。      3      ❇︎  学大の駅から歩いて十分かかんないくらいのところに、その中古CD屋はある。  おれはアップルミュージックとかSpotifyとかのサブスクで音楽聴くのがどうも肌に合わなくてーーそんでこうやってシコシコCDをディグらなきゃいけない、そんなハメになる。まあでもそれも、もちろん好きでやってるんだけど。  最近のテーマは、坂本龍一。YMOはひととおり聴いたんでーー今度は彼のプロデュースワークをチェックしてみようと思って、手始めに大貫妙子のCDを探しにきた。タワレコでバンバン新品のCD買えればそりゃいいんだけど、そんなこづかいはないし、バイトもまだなにしようか決めかねてるし。  そういや、業スーの山上さんには、プルーン買いに行くたびに、鉄くんウチでバイトしろよ、なんてしょっちゅう誘われる。今日も学大来るまえに顔だしたらそう言われた。家からも近いし、そのうち始めるかもしんない。そうすりゃ山上さんとも気兼ねなく話せるし。最近坂本龍一にハマってます、って言ったら、だったらぜひ、フランスの印象派を聴かなきゃ、って言われた。なんでクラシックの棚もチェックしなきゃなんない。マジでこづかいいくらあっても足りない。  結局、大貫妙子の「オ」の字もドビュッシーの「ド」の字も見つからずーーおれは「サテライト」のマスターに軽く会釈して店を出ると、店の前で大きく伸びをして、これからどうしようか考えた。  腹も減ったし、マックでハンバーガーでも食ってから、久しぶりに下北のディスクユニオンにでも行こうかな、なんて考えつつ、駅に向かってぷらぷらと歩いてた。  そのとき、おれはふいに足を止めた。
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